ポーンペイ島には、カヴァ酒と呼ばれる不思議な飲み物があります。ハワイやタヒチのあるポリネシアを中心に飲まれてきた伝統的な飲み物です。かつてはミクロネシアでは東方のコスラエ島でも飲まれていましたが、キリスト教の布教と共に禁止され、現在はポーンペイ島だけで飲まれています。
カヴァ酒は冠婚葬祭などありとあらゆる儀式儀礼に不可欠で、それ無しには文化が成立しません。たとえば、収穫祭や首長たちが出席する会合では必ず飲まれます。今では、個人の家で家族や友人同士で飲まれ、町のところどころにカヴァ・バーで飲むこともできます。
カヴァ酒はコショウ科の木の根を玄武岩の石で叩きつぶし、ハイビスカスの樹皮に包んでヤシ殻のカップに絞り出し、回し?みをします。見た目は粘った泥水で、舌触りは納豆のようにヌルヌル、味はメンソール風です。少しですが叩きつぶした根が口に入るので、ペッペとつばを吐き出しながら飲みます。飲むと胃袋をつかまれたような強い刺激を受けます。実のところ、私は一度もおいしいと感じたことはありません。
カヴァ酒とはいうものの、アルコール分は含まれていません。それどころか、鎮静作用の成分が飲めば飲むほど体をだるくし、口をしびれさせ、飲み会を静かな雰囲気にするなんとも奇妙な飲み物なのです。ヨーロッパなどでは、太平洋の島々から輸入したカヴァの成分を薬品に利用しています。
私が調査に島を訪れた時は、歓迎のカヴァ酒が振る舞われることがあります。伝統首長から遺跡の発掘調査の許可を得るため、豚一頭の丸焼きとカヴァ6束と米30キロを献上して儀式に出席したことがあります。許可を受けコミュニティの一員として認めてもらうために、避けることのできない通過儀礼なのです。「郷に入っては郷に従え」と言ったところです。