赤道に近いポーンペイ島南東部の海岸に、1500年前から1000年ほどかけて建設されたナン・マドール遺跡と呼ばれるミクロネシア最大の巨石建造遺跡があります。海岸の1.5×0.5 キロの範囲に、1〜2メートルの高さにサンゴを積み上げた大小さまざまな95の方形の人工島で形成されています。満潮時には人工島の間が水路になり、「海上都市」や「海の要塞」などと呼ばれてきました。現在、ミクロネシア連邦政府はユネスコの世界文化遺産の登録に向けて活動中です。人工島の上に、儀式や儀礼のための建物や首長の家や墓などが柱状や巨岩の玄武岩で造られており、それぞれの人工島の名前や機能や用途に関する口頭伝承が伝えられています。ある人工島では、50トン以上もあるような巨岩が10メートルの高さに積み上げられています。また、歴代の首長のお墓があるナンタワスと呼ばれる人工島には、推算ですが5万5千本もの柱状の玄武岩が使われています。どのように築かれたのかは、今も謎です。現地の人たちに聞いてみると、「むかし、呪術師が山からマジックで石を飛ばして積み上げたんだよ」と、真顔で答えてくれます。冗談半分で、宇宙人の仕業だと言いたくなってしまうほどで、非科学的な話しですが「謎のムー大陸」にもしばしば登場します。
アメリカのオレゴン大学の大学院生だった頃に、初めてこの遺跡の調査に参加しました。そのとき発した第一声は、「何じゃ、こりゃ。」両側に積み上げられた石積みの遺跡の合間をボートで通り抜けたとき、あまりのすごさに隊員たちは鳥肌状態になっていました。まさか、この遺跡の研究が将来ライフワークになるとは思いもよりませんでしたが、今年でなんと23年目。
先史時代のどんな社会や文化がこんな巨大遺跡を残したのか、不思議でなりませんでした。これを解明することが、今のわたしの考古学研究の主要目的になっています。2年前に実施した発掘調査は、日本人中心の発掘として75年ぶりとなりました。そのときに採集した大量の出土品の分析と研究に、今も夢中になっています。少しでもその成果が、現地の人たちや研究者たちの理解に役立ち、世界文化遺産の登録に貢献できればと願っています。