海外留学生グローバルインターンシップ 過去最多の51人が企業、学校などで就業体験

 海外留学生が日本の企業や学校でインターンシップを行う本学独自の海外留学生グローバルインターンシッププログラム(KGIP)が3年目を迎えました。2017年度は5月下旬から8月下旬にかけて実施。過去最多の延べ51人が派遣され、派遣先も32と最も多くなりました。留学生の奮闘ぶりを3カ所からレポートします。

 
◇英語と中国語で堺観光の魅力発信 サマンサ・ソデツさん(米フロリダ大)、張卓盈さん(香港中文大)~堺観光コンベンション協会(堺市)

 

 江戸時代の面影が残る大阪府堺市堺区の古い商家で、線香を製造・販売する「薫主堂」。6月半ばのある日、玄関に並べられた色とりどりの線香のパッケージを前に、本学の留学生、サマンサ・ソデツさん(米フロリダ大学)と張卓盈さん(香港中文大学)は、同店のおかみさん、北村徳美さんの説明を熱心に聞いていました。

▲見本の線香の香りを確かめるサマンサ・ソデツさん(左)と張卓盈さん
 

 二人は堺市周辺の観光事業の振興を図る公益社団法人堺観光コンベンション協会で、6月の1カ月間、グローバルインターンシップの研修を行いました。
 

月の前半は主に、同協会のHPで紹介された堺市内の仁徳天皇陵や百舌鳥八幡宮などの観光名所、発電所、植物工場などの主要施設を実際に見て回り、担当者や関係者から詳しく説明を聞きました。後半に入ると、FacebookInstagramなどのSNSで自分たちが体験し視察した観光資源等の情報を発信したり、同協会の多言語のガイドサイトの手直しをしたりしました。
 

 張さんは数あるグローバルインターンシップ先のなかから同協会を選んだ理由を「(自国の)旅行が好きな人を助けるような役目をしてみたかったから」と言います。また、ソデツさんは、「日本には、東京や大阪、京都だけでなく、堺のような外国人のあまり知らない、いい町があることを伝えたい」。
 

 二人の考えには、格安航空サービスの普及などで関西方面を訪れる外国人旅行客が急増するなか、堺市が抱いている危機感と通じるものがありました。関西国際空港の国際線を利用した外国人旅客数は2016年度、過去最多の1200万人余り。しかし、大阪と関西空港の間にある堺市に立ち寄る旅行者はその1%にも満たないとみられています。
 

同協会の楠山純秀プロモーショングループ長は「堺が通過都市になりつつある状況をなんとかしたい」と言います。打開策として、「観光地としての魅力を伝えるには、昔でいえば口コミ、現在ではSNSでの情報発信が最も効果がある。英語と中国語のネイティブスピーカーで、日本語も理解できる彼女たちがつくるコンテンツは大きな戦力になります」と話していました。
 

 発信しようと思う堺市の魅力についてソデツさんは「私はアメリカ人なので(国の歴史が若く)、千利休や与謝野晶子のような歴史的なものに興味があります」。張さんも「山口家住宅(堺市立町屋歴史館。江戸時代初期建設の町屋で重要文化財)のような古いものやハーベストの丘のようにいろんな体験ができてホッとするところを紹介したい」。

▲堺打刃物水野鍛錬所を見学するサマンサさんと張さん
 

 二人はこの日、薫主堂に続いて、近くにある堺打刃物の製造・販売の水野鍛錬所を訪れました。ここには刃物を作る様子を見学させてくれる工房があります。インバウンドの大波は、この伝統的な工房にも押し寄せてきています。5代目刀匠で、社長の水野淳さんは、「うちに来て見学する人の6割は外国の人です。それもエストニアやイスラエルなど世界各国から来ています。もっと堺の伝統工芸が世界に広まってほしい」。
 

 包丁から爪切りまで様々な刃物がディスプレイされた瀟洒な玄関の店舗から、暖簾をくぐって奥に進むと、火と鉄の気配に満ちた昔ながらの鍛冶工房が現れます。火床では、炭が鞴(ふいご)の風で燃え盛り、深みのあるオレンジ色に。火床の近くに立った二人は目を丸くして、水野さんの手元を見つめます。鉄を熱しては叩いて鍛え、不純物を飛ばし、鋼を付け、細長い鉄の板は見る間に包丁になって行きます。
 

 水野さんはグローバルインターシップで研修する二人について、「優秀でやる気があり、何より研修を楽しんでいるところがいいですね」と話していました。
 

◇物流最大手でロジスティックスを学ぶ ケビン・ヘルナンデス君(米カンザス州立大)~日本通運(滋賀県栗東市など)
 

日本通運でインターンシップを体験しているケビン・ヘルナンデス君(米カンザス州立大学)を、滋賀県栗東市の同社大津支店に訪ねました。訪問した6月15日は、インターンシップ開始から1週間ということで、改めて日通の会社概要や、荷物の流れなどを勉強する研修日でした。

▲日通の大型トラックのそばで久保課長(左)の話を聞くケビン・ヘルナンデス君
 

「グローバル・ロジスティックス・ソリューションズ」を掲げ、国内では物流最大手の日通。ケビン君は、日通をインターンシップ先に選んだ訳を「ニューヨークの友人がウエアハウス(倉庫)でシステムマネジメントをしており、ロジスティックス(物流の一元管理)にも興味がありました。ニューヨークで日通のトラックが走る姿を見たことも、日通を選んだきっかけ」だといいます。インターンシップでは京都支店をベースに、荷物の梱包、仕分け、点検、輸出入に関する書類の整理など、多岐にわたる業務に挑戦しています。
 

この日は、同社関西営業開発部の久保修志課長(大津支店駐在)が研修の講師。ケビン君のために久保課長自ら作成したという英文のレジュメに沿って説明。
 

「日通の成り立ちは『国策会社』としてスタートしました」
 

いきなり、難解な用語に首を傾げるケビン君に、久保課長は英語を交えながら、旧国鉄(JR)の貨物輸送との関わりを説明しました。名古屋と大阪の中間に位置する地理的な重要拠点を担う大津支店の役割についても学びました。
 

「優良企業である日通という会社の仕組みを探りたかった」。ケビン君は、インターンシップの目的をこう話します。日本で働いた感想を聞くと「アメリカでは個人個人の仕事のペースが早く、ついていけない人はストレスが蓄積します。日本ではみなさんが互いに協力することで、個人個人の負担が少なくなり、そのことがストレスの軽減につながっているのだと思います」

▲倉庫に積まれた荷物の行き先が書かれたシールを確認するケビン君
 

「始めは仕事に馴染めず、分からないことが多かったのですが、みなさんの許容する気持ちに助けられ、仕事の全体像を知ることができました」と、日通での就業体験を通して日米の働き方の違いなどを語りました。
 

ケビン君をサポートする京都支店総務担当の塩出真理子さんは「どんな仕事にも真面目に取り組んでいます。専門的な言葉の壁を乗り越え、失敗してもチャレンジしようという姿勢が見られます。スタッフとも打ち解けて、休み時間は冗談を言って溶け込んでいます」と、仕事ぶりをこう話しています。
 

カンザス州立大学では、ジャーナリズムやスペイン文化を専攻するケビン君は、今回のインターンシップ経験を「将来は、この体験や日本での経験を生かして、日本で働きたいと思っています」と、目を輝かせていました。
 

かつて、米・ニュージャージー勤務の経験がある久保課長とニュージャージー出身のケビン君。研修中も時折、彼の地の話題に話が弾んでいました。

◇知的創造・交流の場で人・コト・情報をつなぐ バーバラ・カーワットさん(ポーランド・ヤギロニアン大)~ナレッジキャピタル(大阪市)

 

JR大阪駅北側にある産官学の連携拠点「ナレッジキャピタル」。2013年4月に開業した「グランフロント大阪」の中核施設で、起業家や研究者らが交流を通じてイノベーションを起こし、新製品やソフトの開発につなげる「知的創造・交流の場」です。
 

 この最先端技術が集まる場所で本学留学生として初めてグローバルインターンシップに臨んだのは、バーバラ・カーワットさん(ポーランド・ヤギロニアン大学)です。施設の専門スタッフ「コミュニケーター」として、企業、大学などが技術や活動を紹介するエリア「アクティブラボ」で展示物を紹介したり、会員制サロン「ナレッジサロン」で会員同士を引き合わせたりする仕事に取り組みました。

▲展示ブースで説明するバーバラ・カーワットさん(右)
 

 ここを志望したのは、「日本語を使って仕事ができるところを探し、〈コミュニケーター〉とあったのですぐ決めました」という日本語好きです。
 

 アクティブラボでは、研究過程のものや試作品が展示されます。それらを一般ユーザーに体験してもらい、その声を拾い上げ、企業や大学にフィードバックするのが、コミュニケーターの役目です。いわば人・コト・情報をつなぐ「触媒」です。
 

 「お客様と話すのはとても楽しく感じました。ただ、大学の授業では出てこないような専門用語も多く、覚えるのが大変でした。コミュニケーターは毎日デスクワークがあり、パソコンにフィードバックを打ち込むのですが、作業が終わった後に単語を暗記しました」。それなりに苦労もしながら、多くのことを学んだようです。
 

 取材に訪れた6月14日は、ほかのコミュニケーターとともに、一般来場者に展示の説明を行うラボ・ツアーを行っていました。展示ブースは計13。最新の印刷技術を披露する印刷会社、凸版印刷のブースでは、バーバラさんが絵画の前で「特殊な技術を使い、絵画を360度から見ることができます」と説明した後、実際にコントローラーを操作して絵を上や下から眺める映像が映し出されると、観客から「すごい」と声が上がりました。
 

 コミュニケーター管理室の山中雅恵マネジャーは「コミュニケーター業務に意欲的に取り組む姿がとても印象的でした。短期間に多くのことを習得し、成果を見せていただけてうれしく思います」とバーバラさんの仕事ぶりについて話していました。  

▲来場者にパンフレットを配るバーバラさん
                      

 一方、会員制サロン「ナレッジサロン」では、英語同好会を主宰する会員の上坂博一さんから声がかかり、英語を使った会話に参加しました。「日本での一番の思い出は?」「奈良の寺院などを参観したときに見た若草山の山焼きです」「どうして関西外大を留学先に選んだの?」「プログラムが充実していたからです。京都、奈良、神戸に近いローケーションの良さもありました」――会話が弾み、すっかり打ち解けた様子でした。上坂さんは「とても熱心に答えてくれ、楽しかった」と満足そうでした。
 

 日本語に興味をもったのはアニメ「ドラゴンボール」がきっかけといいます。小学生の時にフランス語版を見たのに続き、中学生の時に日本語版を見た際、日本語と分からなかったものの、言葉の響きに魅せられ、勉強を始めたということです。
 

 インターンシップでは、大学の授業も役立ちました。「今学期は、経済分野などの難しい単語や敬語を学び、インターンシップで使うことができました」。授業でプレゼンテーションを多くこなしたことで、この方面の力もつき、サロンでポーランドについてのプレゼンテーションもしました。6月に帰国後、母校であと1年学びます。今回の経験も生かし、日本語を使う仕事に就くことを目指しています。
 

 

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