世界遺産ナスカの地上絵 最新研究結果 坂井正人・山形大教授 イベロアメリカ研究センター主催連続公開講座第2回

関西外大イベロアメリカ研究センター主催の連続公開講座「古代への情熱-米大陸アーケオロジーの最前線-」(全3回)の第2回は1120日、南米ペルー・ナスカの地上絵の研究者として著名な、山形大学人文社会科学部の坂井正人教授を招き、「世界遺産ナスカの地上絵:最近の研究成果をめぐって」と題した講演を中宮キャンパス・ICCホールで行いました。市民や学生ら約90人が、熱心に耳を傾けました。

▲講演する坂井正人・山形大教授

 ナスカの地上絵は巨大さと、だれが、なぜ、どうやって描いたのか、などが謎とされ、さまざまなメディアで紹介されてきました。坂井教授はまず、地上絵が描かれた土地の地理について衛星画像から説明。地上絵のある場所は砂漠台地で、その縁を巡るように河川が流れるところには緑地帯があり、人が住んでいることを示しました。

 地上絵の研究が始まったのは近年。欧米からの調査団と現地の間でトラブルが起きたり、南北15キロ、東西20キロという広大な土地の調査方法がみつからなかったことなどから、研究が進みませんでした。それが、衛星画像の一般利用や、最近ではドローンの使用など技術革新で研究が可能になりました。

 ナスカの地上絵を巡る大きな「謎」は5点。誰が、いつ▽上空からしか見えないのか▽どうやって制作▽なぜ破壊されなかったのか▽何のために―。制作目的の解明と遺跡の保護を目的に掲げた山形大学調査団は、収集した地上絵周辺の土器の調査や地上絵の分析から疑問の解に肉薄してゆきます。

▲解き明かされていくナスカの謎に、市民らが熱心に聴講した

 ナスカ台地の北方と東方に集落の痕跡があり、その住民が地上絵を制作。紀元前200年~紀元1年のナスカ早期と、紀元450年までのナスカ前期の2つの時代に分かれて、前者では面で描く比較的小型で具象的な地上絵を、後者では線で描く数十メートルから300メートルもある巨大な地上絵や抽象的な線画が制作されました。前者は斜面に描かれ地上からでも見ることができます。巨大な線画も地上で絵の一部分を認識することができます。衛星画像分析で、直線だけの地上絵は1万本を大きく超えるとみられ、山形大調査団は実際に歩いて数千本を確認、調査しています。

 制作は簡単で、地上の暗色の石をどけると白い大地が現れます。幅15センチ程度の線の両脇に、どかした黒っぽい石を置くとコントラストで線が浮き上がります。不思議なのは、こうした線の近くには、わざと割ったとみられる土器がたくさん散らばっていることです。アンデス山脈の山裾のナスカ台地は、周辺の崖などが水の流入をはばみ、石ころだらけで農地に適さないことから地上絵や割れた土器が2000年以上も手つかずで残されてきました。

 何のために―という疑問にはこれまで、宇宙人説、天文暦説、豊穣祈願説という仮説がたてられてきました。坂井教授は、宇宙人説は可否のどちらも不明、天文暦説は天体の軌道に合致する線画がわずかであること、豊穣祈願説はハチドリ、サルなど実りにつながらない絵があること―から、決定的な結論は出ていないとしています。

 最後に坂井教授は、宅地開発などで浸食されていくナスカの世界遺産の保護を訴えて話を締めくくりました。

 坂井教授は1963年千葉市生まれ。東大大学院から山形大助教授、2009年山形大教授。専門は文化人類学、アンデス考古学。連続公開講座の第3回は11月29日、「メソアメリカ文明の先古典期文化―オルメカ文化を中心に―」と題し、伊藤伸幸・名古屋大大学院助教が講演する。



 

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