人麻呂を語る 坂本信幸氏が恒例の万葉集の魅力講座 IRI言語・文化フォーラム

 国際文化研究所(IRI)の第4回言語・文化研究フォーラム記念講演が215日、中宮キャンパス・ICCホールで開かれ、今年も万葉集研究者の高岡市万葉歴史館館長、奈良女子大名誉教授の坂本信幸氏が万葉集の魅力について語りました。公開講座として開催され、学生や教職員のほか、市民らも含め約65人が聴講しました。


▲万葉集の魅力について語る坂本信幸氏
 

 坂本氏が同記念講演を行うのは4年連続で、今回のテーマは「万葉集の魅力-柿本人麻呂の石見相聞歌-」。歌聖と仰がれた柿本人麻呂が妻への思いを歌った相聞歌を中心に解説しました。冒頭、人麻呂について、作成年代の判明する歌は689700年頃とし、経歴が定かではないなど、なぞの多い歌人として紹介されました。
 

 「石見相聞歌」は、石見の国(現在の島根県)の役人をしていた人麻呂が妻を残して上京する際、妻への思いを歌ったもの。巻二・131の「柿本朝臣人麻呂、石見国より妻を別れて上り来る時の歌二首併せて短歌」がまず取り上げられました。
 

 <石見(いわみ)の海 (つの)(うら)()を 浦なしと・・・玉藻なす 寄り寝し(いも)を・・・>で始まる長歌では、妻の住む里から遠く離れてしまったことが切々と詠まれた後、短歌が続きます。
 

 <笹の葉は み山もさやに さやげども 我は妹思ふ 別れ来ぬれば>(笹の葉は、お山全体にはっきりと音を立ててざわめいているけれども、私はひたすら妻のことを思う。別れて来たので)


▲講演に耳を傾ける聴講者
 

 坂本氏は、長歌について、第1句から、妻が登場する句<寄り寝し妹>にいたるまでに23句の比喩が費やされ、その部分が全体の半分を占めていることに触れ、「一見、頭でっかちの構成のように見えるが、冗長さを感じさせない豊かな表現」などと、序文が長い人麻呂の歌の特徴を解説しました。
 

 これに関連して、坂本氏は、都と地方の差が大きく、歌に歌われる女性の大半が貴人であった時代において、「普通の女性を詠むためには、長い序文が必要だったと考えられる」と自説を述べました。また、歌人の斎藤茂吉が絶賛したという上の短歌については、サ行を重ねた巧みな表現であると説明しました。
 

 そのほか、<玉藻なす>は<寄り寝し妹>に掛かっている、などと歌の注釈が豊富な用例や専門家の見方を引きながらなされ、聴講者は熱心に耳を傾けていました。

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