「アジアのことばとしての英語」を考える~本名信行・青学大名誉教授ら講演 IRI言語・文化コロキアム

 国際文化研究所(IRI)の第5回IRI言語・文化コロキアムが1月26日、「アジアのことばとしての英語―アジア諸国に根付く英語の事例からー」をテーマに中宮キャンパスのマルチメディアホールで開かれました。本名信行・青山学院大学名誉教授、竹下裕子・東洋英和女学院大学教授、小張順弘・亜細亜大学講師がそれぞれアジア各国で使われている英語の事例を交えて講演した後、3氏によるシンポジウムが行われました。公開講座として開かれ、学生や教員のほか、市民も聴講しました。


▲中宮キャンパス・マルチメディアホールで開かれた第5回IRI言語・文化コロキアム

 最初に本名氏が「英語はアジアのことば~普及と変容の観点から~」と題して講演。英語が世界に広がる過程で変容し、いろいろな変種が発達したとして、アジアではインドやフィリピンなど英語を第2言語(ESL=English as a second language)、つまり公用語にしている国が多いと話しました。シンガポール英語は可能を表す場合、「can can」と繰り返し語法を多用し、中国英語は「面子」に関する表現に富むなどの例を引き、「英語の広がりは、ネイティブの英語が広がったのではなく、多文化言語としての英語が使われるようになった」と指摘しました。

 そのうえで、非ネイティブ同士の国際言語としての英語の再構築や、英語教育は「言語を学ぶ」より「言語を使うことを学ぶ」方向に工夫すべきなどと提案しました。


▲講演する(左から)小張順弘・亜細亜大学講師、竹下裕子・東洋英和女学院大学教授、本名信行・青山学院大学名誉教授

 続いて、竹下氏が「タイにおける英語の役割」と題し、タイの英語教育の歴史やタイ英語の特徴を紹介しました。発音の特徴について、タイ人に文章を読んでもらった音声の録音を会場で再生し、単語の強勢を後ろにずらす傾向などを示したうえで、「相手の特徴を知ったうえで、コミュニケーションをとることが必要」と指摘しました。

 また、タイの飲食店に掲げられた「へただけど英語を話します」と書かれた看板の画像を見せ、「自分のニーズに応じて、自分の分野で必要な語彙を用いてタイ人としての英語を話すこと」――こうした姿勢が必要ではないかとも指摘しました。

 最後に、小張氏が「土着化するフィリピン英語」と題して話しました。フィリピン英語の定義について、知識人、中・上流階級、ホワイトカラー、出稼ぎ労働者など、それぞれが使う英語といったとらえ方が示され、フィリピン英語は地域ごとの地域方言や職業や階層による社会方言、教育格差に伴う教育方言があることが紹介されました。

 日本での英語の土着化に関連し、大阪メトロ御堂筋線、JR山手線、JR高崎線の車内放送で次の「駅」をそれぞれ「stop」「station」「destination」と表現していることを会場で車内放送の音声を流して確認し、「日本で生活分野に英語が浸透するにつれ、地域差のある英語が出てくるのだろうか」と問題提起しました。


▲シンポジウムを行う(右から)小張、竹下、本名の各氏。左端は司会の清水恭彦・外国語学部教授

 この後、会場の聴講者から提出された質問をもとに、清水恭彦・外国語学部教授の司会で3氏のシンポジウムに移りました。英語を第2言語としていない日本などの国で英語はどう教えるべきかとの質問に対し、本名氏は「学習者は米国や英国の英語をインプットするわけだが、学習しやすいパターンをインプットし、自分の母語をフィルターとして、日本人なりの英語をアウトプットする。以前はインプットとアウトプットが同じでないといけないと考えられたが、今後はアウトプットすること自体が大事になるだろう」として、自分なりのことばで話すことの重要性を指摘しました。

 10~30年後の英語教育のあり方について、竹下氏は「言語の学習者は必ず文化の学習者でなければならない。文化の面で補いながら、どうコミュニケーション力を補っていけるかが大事」と述べ、相手の文化的な背景に配慮する必要性に触れました。小張氏は「英語を学ぶ入口は教育であり、経済的な格差が教育に影響する。将来、日本国内で英語教育の間口をいかに広げていけるかも重要」として教育制度の改善に言及しました。
 
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