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概要

外大通信デジタルブック

17 | THE GAIDAI No. 302 Summer, 2020――今春、博士論文をもとにした著書〝BODIES THAT WORK?をアメリカで出版されました。 邦訳すれば『働く体』『機能する体』といった意味です。アフリカ系アメリカ人女性に対する人種差別を研究対象にしていますが、そうした人々の体の部位が奴隷制からの解放とともに見直されてきた歴史に焦点を当てました。薄毛や禿頭を覆いで隠していた女性が手入れをしてきれいな髪を手に入れる、白人から差別されていた女性が声楽を勉強してオペラ歌手になる―など女性たちが自身の体(の部位)を再定義し、奴隷制時代とは異なる新しい女性像を社会に提示して、自身の解放につなげていった過程を現地の資料を踏まえて明らかにしました。 博士論文は、原則として所属大学のリポジトリで全文公開されるため、出版するのは簡単ではありませんが、筑波大学の指導教員・竹谷悦子教授からご助言をいただき、論文公開前にアメリカの出版社数社に企画書を送り、そのうち1社と契約を結ぶことができたため、公開を免除されました。米国について日本人が書いた本を現地で出すのも難しいことですが、米国各地の歴史資料館などに通い、所蔵されている一次史料を読み込み、〝新しい発見?を盛り込めたことも評価につながったと思います。博士論文提出後1年をかけ、語数にして2倍近くに加筆しました。――大学で英文学科に進まれたのは、何かきっかけがあったのですか。 中学生のとき、東京で開かれた「高松宮杯全日本中学校英語弁論大会」(現・高円宮杯全日本中学校英語弁論大会)に地元・徳島県の代表として出場したことが原点になっているような気がします。大会では、かつて大会に出場した大学生がボランティアとして活動していました。とても輝いて見え、いつか自分もこのような大学生になりたいと思ったものです。 大学の専攻はイギリス文学でしたが、留学したロンドン大学でアメリカ文学のセミナーに所属しました。そこで、イギリス文学とは違うアメリカ文学の面白さに衝撃を受け、後にアメリカ文学の研究者になるきっかけになりました。イタリア・ミラノの国際学会で発表したポスターの前で右と同様、一次史料を収集したニューヨーク・パフォーミングアーツ公共図書館博士論文を書くため一次史料を収集したインディアナ歴史協会米国で出版した著書――大学卒業後は企業2社に勤められます。後の研究者人生にどんな影響を与えましたか。 外資系電機メーカーと語学系出版社に4年間ずつ、合わせて約8 年間勤務しました。メーカーでは営業本部で半導体の顧客サービスを担当した後、人事部で社内報作成に携わりました。編集の仕事に面白さを覚え、移籍した出版社では、ライターやカメラマンを連れて著名人やタレントを取材するなど充実した日々を過ごしました。 民間企業に勤めたおかげで社会の仕組みや人間関係の機微がわかるようになり、視野が広くなったと思います。学生に対して、社会人になるとはどういうことか、企業でどう生きていくべきかといったことをアドバイスしてあげられます。――その後、研究者の道へと進路を変えられました。 私は何ごとにも全力で取り組まないと気がすまない性分で、編集の仕事は、連日連夜、〝文字との闘い?のような生活になり、このまま続ければ疲弊してしまうと不安を感じるようになりました。そこで、学生時代に興味を覚えたアメリカ文学をもう一度学びたいと考えて大学院に進学しました。さらに、大学教員をしながら5年前に大学院博士課程に入り直し、この本のもとになった英語論文を書き上げ、博士の学位を取得することができました。――授業や学生と接するうえで心がけていることがありますか。 学生がどう育つかは教員次第だと思います。こちらが本気でぶつかっていくと、本気で応えてくれます。授業では、楽しみながら学ぶ方法を見つけてくださいと言っています。そのためにも、私自身が面白い、楽しいと思う教材や知識、内容を最良の方法で提供するよう心掛けています。教員自身が楽しまなければ、学ぶ楽しさは学生に伝わらないと思います。 キリスト教倫理に「人からしてほしいと思うことのすべてを人々にせよ」という原理「黄金律」がありますが、これは各人の宗教や思想に関係なく重要な原理であり、今の日本では、そういうことが非常に足りないと思います。学生には、常に相手の気持ちを考えて行動してほしいと思います。また、長期的なビジョン「野望」をもち、自分にしかできないこと、この人でなければだめだといわれるような強みを身につけてほしいと願っています。体の部位に着目したアフリカ系米国女性史転機となった英語弁論大会と英国留学「黄金律」を大切にし、「野望」をもとう