スペインから関西外大に留学しているJuan Garcia(フアン)さんは、母語であるスペイン語とカタルーニャ語をはじめ、英語、日本語を使いこなすマルチリンガルだ(フランス語も少し喋れる)。
言語をマスターするのが趣味のようになっていて、自然と英語や日本語を習得してきたというフアンさん。
そんな彼の日本語勉強法として、
- アプリの活用
- 動画&字幕で学習
- 生活の中で気になったものの単語を繰り返し調べる
といったことを挙げてくれた。
記事では、その具体的な中身についてご紹介します!
*インタビュー内容は取材時のものになります。
学生プロフィール
学生プロフィール
- Juan Garciaさん(愛称:フアンさん)
- バルセロナ自治大学(Universitat Autònoma de Barcelona)
- 専攻 LINGUISTICS(言語学)、副専攻BACHELOR’S DEGREE IN TRANSLATION AND INTERPRETING(翻訳および通訳)
高校卒業後、将来の進路を決めきれず、ひとまず「手に職を」ということで臨床検査技師の専門学校に2年間通い、その後現在所属しているバルセロナ自治大学に入学。
語学の学習は10歳のときに英語の勉強を始め、学校での勉強とは別に「趣味」として取り組んだ。
そして、母国語であるスペイン語/カタルーニャ語のほかに、
- 英語
- 日本語
- フランス語(ちょっとだけ)
といった言語をマスターしていく。
普通に、いろいろな国の人と喋るのが楽しくて、それが私の語学学習の原点になっています。
フアンさんが日本語・日本文化に触れ、学んできた経緯
「言語が趣味」というフアンさんは、大学でも言語学と翻訳、通訳を専攻しているわけだが、初めて習得した母国語以外の言葉は英語だった。
特に勉強をしようと思って取り組んだわけではなく、10歳くらいの頃からYouTubeで海外のいろいろな動画を観ていくなかで、英語をマスターしていったという。
例えば、子どもがご飯を食べて「yummy」と言って笑顔を見せている動画を見て、「おいしい」っていう意味なんだろうなって感覚的に理解するという感じで、少しずつ語彙を増やしていきました。
勉強をしているという感覚はなく、「動画を見て、わからない言葉などが出てきたら調べて覚えて」といったことを繰り返しているうちに、自然と英語をマスターしていった。
また12歳の頃、アイスランド出身の方が定期的に地元の街にやってきて、交流を取る機会があった。
その頃、英語でのコミュニケーションはある程度できるようになっていたので、意思の疎通は可能だったがフアンさんの関心を惹いたのが、時おり彼らが話すアイスランド語だった。
響きが面白いと思ったのと、相手の言葉でコミュニケーションが取れると楽しいなと思って。
それが、母国語以外の言葉をマスターしていく「趣味が言語」となる原点になっています。
英語の次にイタリア語やドイツ語ではなく、日本語にいった理由
英語をマスターした後、次に取り組んだのがフランス語だった。
ただ、本格的な勉強にまでは移行せず、次に日本語を勉強し始める。
ヨーロッパにはフランス語に限らず、ドイツ語やイタリア語など近隣諸国の言語があるわけだが、なぜそれらにアプローチせず、いきなり日本語に行ってしまったのだろうか?
やっぱりアニメの影響があると思います。スペインでも『ドラえもん』とか『ナルト』とかが放映されていて、周りの友だちがけっこう観ていたので、その国の言葉を話せるようになると面白いかなって。
ただ、スペイン語と同様にアルファベットが用いられている英語やフランス語のとっつきは良かったが、漢字やひらがななど、独自の文字を使う日本語のハードルは高かった。
実際のところどうだったのかをフアンさんに訊いてみると、「難しかった」と即答が返ってきたが、一方で「楽しくてしょうがなかった」とも話す。
最初の頃は、「今日はラーメンを食べた」とか簡単な文章を話せるようになるとうれしい。その繰り返しで、「あっ、これもわかった。これも読める!」とわからないものが理解できていく喜びが大きくて、楽しかったです。
1日5分でマスター!? フアンさんの日本語の勉強法
というわけで、どのように日本語を習得していったのか、その勉強法について伺ったのだが、ファンさんいわく、いわゆる「勉強らしい勉強はしていない」とのこと。
え、どういうこと?という感じだが、要は「趣味だから、苦学するという感じではなく、どんなことでも楽しい」とのことらしい。
とはいえ、具体的に何かはやっていたはずで、訊いてみると、
- YouTubeで動画を見る
- 日本語学習に使えるアプリの活用
という回答で、アプリは通学中などの空き時間に開き、ひらがなや漢字を勉強した。
あとは、日常生活を送っているときに、目の前に見えたことをすべて日本語に変換していった。
例えば、歩きながら信号機を目にすると、スペイン語では「semaforos」が信号機なんですけど、「semaforos=信号機」という風にインプットしていきました。
それ以外にも、椅子や机、窓といった感じに身の回りの単語を覚えていった。
ただ、1回その作業をして言葉が身に付くわけではないので、日常生活のなかで何度も繰り返す。
その反復を通じて、日本語の語彙数を増やしていった。
この作業は、生活の一部みたいな感じでやっていました。だから、自分の中では「勉強していた」という感じではないんですよ。
DISCORD(アプリ)を用いて日本語を学習
我流で、趣味感覚で日本語を覚えていったというフアンさんだが、何かしら系統立てて学習してないのか?と思って何度も追求してみると、「あ、思い出した。DISCORDというアプリを活用していました」とフアンさん。
グループチャットのように、「日本語」「英語」といったグループのところに入っていって、英語や日本語で会話をした。
独学で英語や日本語を勉強していましたが、大学生になるまでは周りにネイティブの人がほとんどいなかったので、ディスコードがいいアウトプットの場になっていました。
同アプリは15歳の時から始め、多い時で週に4回、夜の自由な時間にアクセスし、さまざまな人と対話を楽しんだ。
1度に滞在する時間は「けっこう長かった」とのことで、1時間~3時間くらい。
特定の誰かと毎週話をするというより、毎回アプリ内の適当な「部屋」に入って、フランクに日本語での会話を楽しんだ。
「こんにちはー、何してる?」みたな感じで入っていって。最初の頃から日常会話とかはなんとかできてて、そういうのを繰り返していくなかでスピーキングを鍛えていった感じです。
ミートアップを活用し、実際に日本人の方と会う!
DISCORD(ディスコード)と併せ、フアンさんが日本語学習で利用していたアプリがMeetup(ミートアップ)だ。
ミートアップ内の日本語学習者やスペイン在住の日本人などのコミュニティに入り、オンラインはもとより、そこで知り合った「スペイン語を勉強したい日本人」の方などと実際に会い、交流を深めていくなかで日本語のスキルも磨いていった。
特別仲良くなった日本人の方もいて、バルセロナの街中で会い、いっしょに食事を楽しみながらコミュニケーションを楽しんだのをはじめ、日本に留学中の今もやりとりをしているという。
僕より少しだけ年上のマサシという日本人とすごく仲良くなって、一緒に遊んだり、喋ったりしているのが何よりの日本語の勉強になりました。
漢字の勉強は日本映画の字幕で
日本語を母国語としない方の障壁となるのが「漢字」だが、ファンさんの場合、漢字に関しても専門のテキストなどを利用したわけではなかった。
自分が関心のある言葉の漢字を調べるところからスタートし、一番最初に覚えたのが「青」「赤」という漢字だった。
単語を覚えたときと同じで、自分が気になる言葉の漢字を調べて、覚えるということを繰り返しました。日本に来てからも、日本人といるときは気になる漢字があったら「なんて書いてあるの?」って質問しています。
また、映画をはじめとする動画作品の字幕も活用した。
字幕を見て、わからない漢字や気になる文字が出てきたときに一時停止をし、調べて、意味や書き方を習得するという方法だ。
こちらも趣味というか、作品を楽しみがら勉強しているので、特に大変とかそういったことはなかったですね。
目に見えるものすべてが勉強の対象!?
例えば、道を歩いているときに「関係者以外の立ち入り禁止」という看板があると、あれはなんて書いてあるの?と日本人の友だちに聞き、一人の場合はスマホで写真を撮る。
それで意味や読み方を確認するわけだが、もちろん一回で定着はしないので、次に街で見かけたりしたときに再度確認し――ということを繰り返すことで、知識を定着させていく。
同様に、飲食店に行った際のメニューを見て、わからない言葉などがあったら周りの人に質問をする。
目で見て興味をもったものや、「自分が話したいこと」「読みたいこと」をその場で勉強していく。それが僕の勉強法ですけど、語学学習において一番大切なことだと思います。
音楽の英才教育を受けていたことが語学学習にも役立った説
ご両親の意向で、フアンさんは8歳の頃から小学校と並行して、音楽の学校にも通った。
そこで16歳までみっちりクラシック音楽について学び、
- ピアノ
- ギター
- 弦楽器全般(ベース、ウクレレなど)
などの楽器を弾きこなす。
16歳で音楽学校を卒業した後も、個人的に楽器は続け、日本でも演奏できればと来日する際にクラシックギターを持ってきました。
クラシックギターの弾き語りがメインだが、テクノなども好きで、少しだけど楽曲をMIXしたり、DJをやったりもしている。
また、枚方にあるジャズバーで、時おり演奏もしているという。
主にジャズやクラシックのインストルメンタルの楽曲を演奏しています。
ちなみに、フアンさんは楽曲を聴くとコードなどの耳コピができる。
日本人学生とカラオケに行って、彼らが歌う日本の曲を聴いて、日本のポップソングもたくさん覚えたそうで。
スピッツの「ロビンソン」とか斉藤和義の「ずっと好きだった」とかいいですね。カラオケで友だちが歌っているのを聴いて覚えました。
この話を聞いて、もしかしたら音楽で培われた「耳の良さ」が言語学習にも活かされているのではないかと思ったりした。
教科書を用いた勉強ではなく、YouTubeなどで動画を見ることを中心とする語学学習で英語や日本語をマスターしたということで、「そんなにスイスイ行くのかな?」と半信半疑なところも若干あったりしたわけだが、このフアンさんの「耳の良さ」がいい影響をもたらしているのかもしれない。
もしかしたら少し関係あるかも。だけど、大切なのは言葉を介してコミュニケーションを取りたいという思いと、楽しみながら、無理なく取り組める自分なりの勉強法を確立することだと思います。
音楽関連の話でいうと、関西外大の留学生別科の授業で、現在「琴」もならっている。
弦楽器全般は弾けるというフアンさんだが、琴は勝手が違うようで…。
琴はもう、想像以上に難しい…。けっこう長いこと音楽をやってますけど、あんな形の楽器は初めてです(笑)。
初めての海外は日本!?
母国語であるスペイン語をはじめ、英語、日本語など複数の言語を話すフアンさんだが、実は本格的な海外体験は今回の日本への留学が初めてとのこと。
お兄さんが働いていた関係でロンドンには行ったことがあるが、トータルで1週間も滞在していなかった。
なので、本格的な海外の滞在は今回の日本が初めてで、すごく楽しみにしていました。
バルセロナ時代はミートアップなどのアプリを活用して日本人の友人と定期的に交流していたが、日本に来てからは当たり前だが周囲の日本人の数が飛躍的に多くなり、日本語をアウトプットする機会も圧倒的に増えた。
関西外大の留学生別科での日本語の授業では、
- Advanced Kanji and Readings
- Japanese 8
を受講し、漢字と日本語は最上位であるレベル8のクラスに所属している。
その他、IEP(Intercultural Engagement Program)のメンバーとしてLanguage Café(ランゲージカフェ)をはじめとする課外活動、自身の音楽活動(お店でのライブ)など、キャンパス内外の多様な取り組みに参加し、日々が充実しているという。
※ Language Caféについては以下の記事をご参照ください。
また、日本での住居として、関西外大の「GLOBAL COMMONS 結-YUI-」に入居。
施設内で世界各国から来日している外国人留学生や外大生たちと、日常的に国際交流を行っている。
※「GLOBAL COMMONS 結-YUI-」については以下の記事をご参照ください。
本当にいろんな人と交流ができて楽しいですし、関西外大に来て、さらに日本語の能力も高くなりました。
さいごに
大学卒業後は日本で働きたいと考えているというフアンさん。
すでに取得しているスペイン語、英語、カタルーニャ語の教員免許※を活用し、日本で教師として働く道を模索する一方、通訳や翻訳などの仕事も視野に入れている。
※カタルーニャ語と英語はC2レベルで取得
日本語学習に関しては、フアンさんの場合、
- アプリの活用
- 動画&字幕で学習
- 生活の中で気になったものの単語を繰り返し調べる
といったことを実践しきた。
一方で、教科書などを用いた体系的な勉強には取り組んでこなかったので、関西外大でのアカデミックな学びは「ちょっと難しいけど、おもしろいです」とのこと。
あとは子どもの頃から音楽を専門的に学び、その「耳の良さ」がスピーキングやリーディングの向上など、語学学習にも活かされたのではないかと本人自らも分析をする。
最後に、日本語に限らず、第二言語の習得に取り組む人たちへのアドバイスをお願いすると、母国語以外の言語の習得には時間がかかるので、詰め込み式の真面目な勉強では続かず、何よりも楽しむことが大切だという。
いわゆる「勉強」ではなく、「趣味」にして、楽しみながら学ぶのが秘訣だと思います。自分に合った勉強法があると思うので、いろいろ試しながらそれを見つけ出してください。
そして、自分の知らなかった世界を知り、他の国の人たちとコミュニケーションを取れるようになることが、言語学習の最大の魅力だと思います!