外務省の北村俊博参事官と谷本和子短期大学部学長が「異なる課題、共通する未来」をテーマに対談しました

 外務省国際協力局参事官(地球規模課題担当)の北村俊博氏が12月8日、中宮キャンパスで「ODA出前講座」の講師を務めるのに先立ち、谷本和子短期大学部学長と「異なる課題、共通する未来」をテーマに対談しました。

    北村参事官は1992年に外務省入省。欧州局西欧課長、大臣官房報道課長、在スリランカ日本国大使館参事官、在スリランカ日本国大使館公使、大臣官房兼国際協力局国際協力局長補佐などを経て、2021年9月から大臣官房参事官兼国際協力局、アジア大平洋局南部アジア部。


▲谷本和子短期大学部学長と対談する外務省の北村俊博参事官

    谷本学長「本学の短期大学部は来年、創立70周年を迎えますが、単に語学を修得するだけではなく、国際社会で活躍できる人材の養成を根底の考え方に据えています」

 北村参事官「それは素晴らしいですね。先程、キャンパスにも外国の学生さんたちが、たくさんおられるのを見かけました」
   
    谷本学長「昔はODA(政府開発援助)と聞くと、お金をどれだけ渡すのかだけが先行し、支援者である日本の〝顔〟が見えないな、という思いがありました」

    北村参事官「昔はそういった側面があったと思います。日本人の人間性を、相手国に理解してもらいながら進めるのが日本のODAの特徴です。最近は、特に若い人たちに取り組みについて知ってもらえるよう、『鷹の爪団』のキャラクターを使って、SNSなどでも発信しています」

    谷本学長「ODAと言えば、インフラ整備というイメージですが、数年前からインドの地下鉄を作る事業をスピーディーに進めておられるという印象を受けています」

    北村参事官「相手国からは、意思決定に時間がかかり過ぎると言われます。日本は現地調査から始まって、その国に本当に役立つのか、過度の債務にならないかなど、慎重に進めるので要請を受けてから着工するまでに何年もかかるのです。今、審査プロセスの見直しをやっています」

    北村参事官「インドの場合、地下鉄と高速鉄道(新幹線)の2本柱で進めています。単に線路を敷いて車両を納入するだけでなく、インドの人たちが運営できるよう、責任を持って指導しています」


谷本学長(手前右)とODA事業について意見を交わす北村参事官(奥左)と鶴見直人准教授(奥右)

    谷本学長「日本のパスポートは世界で一番強い(信頼性が高い)とされていますが、外務省でもそういう認識を共有されていますか」

    北村参事官「日本は、ビザなしで渡航できる国・地域の数がシンガポールと並んで非常に多いという意味で、国際的に高い信頼を得ています」

    谷本学長「数十年に及ぶ外交努力の蓄積の結果ですね。国益を念頭において開発援助する場合には、必ずしも成功するわけではないと思います。誠実な取り組みの姿勢が、日本に対する信頼につながっているのだと思います」

    北村参事官「漁師の例え話ですが、釣った魚をあげたうえで、釣り方まできちんと教えてあげるのが日本の考え方です。日本のパスポートが強いのは、政府だけの努力ではなく、そんな日本人を生み出している教育を含めた取り組みのお陰です」

    谷本学長「外務省は方針として、援助や支援を通じて人を育てられています。日本に対する信頼醸成のために、どういった点を重視されていますか」

    北村参事官「JICAを通じて、様々な分野の専門家を派遣しますが、その国の課題について政策を立案し、地道に技術指導を行っています。例えば、柔道が得意な若者を先生として派遣し、現地の文化や考え方を学んで帰って来た際に、所属する会社や地域のコミュニティでフィードバックしてもらう。逆に、外国人を役所や企業で研修員として受け入れ、仕事や技術だけでなく、日本の文化や考え方を母国に戻って伝えてもらいます。それが日本に対する信頼につながります」

    谷本学長「これはアメリカ側の意見ですが、最近、日本の留学生が少ないという声をよく聞きます。JICAに応募する若者に何か変化があるのでしょうか」

 北村参事官「ここ数年 、コロナ禍でJICAの青年海外協力隊も少なくなっていましたが、興味を持っている若者は多いです。ただ、せっかく学校を休学して貴重な経験を積んだのに、日本に帰ってから受け皿がないという問題があります。企業や地方自治体で活躍できる場を作ってあげれば、応募してくれる若者はもっと増えると思います」

   谷本学長「これまで本学も、語学留学や専門留学というかたちが一般的でしたが、今後は目線を変えて、SDGs留学など、学びとサービスラーニングを強化していこうと思っています。きっかけとなる留学がうまくいけば、国際機関で働きたいという若者も増えると思います」

   谷本学長「JICAから帰ってきた人たちに、アカデミックポジションを与えられないか。彼らには偏差値やテストの結果には表れないスキルが備わっており、人間的にも大きく成長しているはずです。大学、短期大学と外務省が何か協力していけないか、と感じています」


▲外務省の取り組みについて説明する北村参事官(左)と鶴見准教授

   北村参事官「そういった学生を外務省で受け入れる場合、試験での採用の他に、大学在学中から応募してもらえる在外公館派遣員制度があります。COP27でエジプトを訪れた際、2年間の派遣期間を終え、もうすぐ帰国する日本人の学生がいましたが、現地人に負けない交渉術を身に付けていて感心しました」

   谷本学長「青年海外協力隊などの経験は、若い人たちの人生観に大きな影響を与えます。人生100年時代ですから、豊かな経験を積んでいる人たちを社会に還元してうまく活用していければ良いですね」

   北村参事官「外国では22、23歳で働き出す人はマイノリティーです。日本でも、若者がもっと経験値を増やしてから社会に乗り込んでいくかたちにできないものか、模索しています」

   谷本学長「いろんな仕組みを外務省で構築されているので、大学や企業が協力しながら進めることができれば、日本に新しい風を吹かせることができるのではないかと思いました」

   谷本学長「最後に、18、19歳で入学してくる学生たちに、何かアドバイスがあればお願いします」

   北村参事官「外国語大学に入った時点で外国に対する関心、興味は非常に高いと思います。実際に外国に赴いて、いろいろと経験し視野を広げることで、新たな1歩を踏み出す勇気を持ってもらいたいと思います」
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