ハイジャックされたANA機の乗客500人を危機一発で救った〝奇跡の機長〟が学研キャンパスで特別講義


▲航空の安全について講義をする山内さん(スクリーン前)

15年前、東京・羽田空港を離陸した直後に起きた全日空(ANA)機ハイジャック事件で、機長が刺殺され、まもなく機体が急降下し、高度300㍍の墜落寸前に操縦桿を確保し、間一髪で乗客約500人の命を救った〝奇跡の機長〟が6月13日、学研キャンパスの「国際交通論」の授業で特別講義。「一歩前へ勇気を持って踏み出せ」と出席した学生たちを励ました。
 

▲なじみやすい語り口で解説する山内さん

ANA総合研究所客員研究員の山内純二さん(67)で、総飛行時間1万6000時間を超える元ANA機長。職場が一緒だったという国際言語学部・西田透教授の「国際交通論」授業に合わせて、この日は「航空の安全」をテーマに講義。就活中で出席できない4年生に代わりに、ツーリズムなどの授業を受けている2、3年生も加わり、60人近い学生が聴き入った。
 

▲解説には手振りやユーモアも混じった

山内さんは1999年7月23日、包丁を持った男(当時28歳)にハイジャックされた羽田空港発新千歳空港(北海道)行きANA61便(ボーイング747型ジャンボ機)の客席に乗り合わせた。自身は新千歳から名古屋へのフライトのための移動だった。乗員は14人で、乗客は503人もいた。
 
61便は午前11時23分の離陸した2分後に、搭乗していた容疑者が包丁を客室乗務員に突きつけ、コックピット(操縦席)に行くように脅迫。すぐに副操縦士を追い出し、機長(当時51歳)だけを残し、立てこもった。
 
ジャンボ機は、房総半島から南の大島へ。機長は、男をなだめるように会話していたが、途中で刺され、出血のため機長席で死亡。ハイジャック犯は副操縦士の席で自ら操縦桿を握っていたが、迷走して、やがて東京・八王子上空で急降下。地上激突の警告音が鳴ったのを機に、山内さんは他の乗員とともにコックピットの扉に体当たりして突破。乗員らが犯人を押さえつける一方で、山内さんは長島機長の遺体の上にかぶさるように手を伸ばして操縦桿を引いて高度を上げ、住宅街への墜落を免れた。あと数秒遅れていたら大惨事という危機一髪だった。12時14分、羽田に緊急着陸して、他の乗客は無事だった。
 
山内さんは、この日の講義の中で、ハイジャック事件への言及は控えめにしながら、まず「『ありえない』なんて『ありえない』」として、物事を初めから決めてかからないように戒めた。
 

▲静かに聴き入る出席者

2009年1月の米ニューヨークで起きたUSエアウェイズ機のハドソン川への不時着水で、乗客150人を救った機長を紹介しながら、「あの奇跡は飛行機の両方のエンジンに鳥が吸い込まれて起きた。二つともバードストライクになる確率は、ほとんどゼロと思われていたが、起きた」と述べた。
このANAハイジャック事件にしてもその4年前と2年前にも、類似の事案が発生している。もうないだろう、まさか3回もありえないと考えていたのではないか語った。
 

▲冒頭、山内さんを紹介する担当の西田透教授(スクリーン前)

このほか、青森空港の統制の取れた除雪作業ぶりや90秒以内全乗客脱出訓練などの動画を示しながら、ふだんの入念な備えの大事さを指摘。その上で、人は知識だけでは行動できない。「知識よりも意識」を踏まえながら、それでも自分のやりたいことは「一歩前に勇気を持って」進めてほしいと訴えた。
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