「ひらかた市民大学」で戸谷洋志准教授が公開講座『生成AIは人間のあり方をどのように変えるのか?』を開講
2023年11月4日(土)、中宮キャンパス ICCホールで開催された「ひらかた市民大学」で、英語国際学科の戸谷洋志准教授が公開講座を行いました。
「ひらかた市民大学」は市民の皆さんに枚方市内の大学の専門的な知識・情報を学習できる講座を提供し、生涯学習の推進と生きがいの増進を図ることを目的として開催。本学も毎年参画し、当日は約70名の市民の皆さまにお集まりいただきました。
戸谷洋志 准教授プロフィール
1988年東京生まれ。専門は哲学・倫理学。法政大学文学部哲学科卒業、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。
当日は「生成AIは人間のあり方をどのように変えるのか?」をテーマに講演が行われました。
昨今、生成AIの話題を目にすることが多くなりました。膨大なデータに基づき、高速かつ精確に問題解決を図ることができる生成AIは、社会の合理化・効率化を推進するために有用テクノロジーとして期待されています。
しかし、それが世の中に浸透していくことで、社会における人間のあり方に変化が生じるかも知れません。今回の戸谷先生での講演では、哲学の観点から、そうした生成AIと人間存在の関係についてお話されました。
生成AIとは? メリットや問題点などを解説
まずは生成AIの定義として、
・「Generative AI:ジェネレーティブAI」とも呼ばれ、コンテンツを生成できるAI
・従来のAIが決められた行為の自動化が目的であるのに対し、生データのパターンや関係を学習し、新しいコンテンツを生成することを目的とする
ということが語られ、「何かを生成できるだけではなく、生成するために学習することができるのが特徴」であることが解説されました。
具体的な事例として、生成AIのアプリケーションとして有名な「ChatGPT」の政治・司法の領域へのAIの応用などが語れるとともに、「生成AIの言葉は、人間よりも正しいが、なぜ正しいのかを説明すること自体ができない」といった問題点も指摘。
アメリカやヨーロッパ諸国における生成AIへの規制の現状、日本における生成AIに関する態度が紹介されるとともに、テーマの骨子でも「生成AIによって人間の『責任』はどう変わるのか?」という問いが投げかけられました。
生成AIは人間のあり方をどのように変えるのか?
「生成AIによって人間の『責任』はどう変わるのか?」について考える前段として、「責任」という言葉の意味、哲学的な概念、キリスト教における責任について解説され、その上で以下の3つの特徴が挙げられました。
・責任は自由を前提にする(自由に行われていない行為の責任は問うことはできない)
・責任は説明可能である(自分の責任を認めながら、なぜその責任があるのかを説明できない、ということは不可能)
・責任は審級を必要とする(その責任を正当化できる、客観的な基準としての審級を必要とする(神や法律など))
上記を踏まえ、「人間には、生成AIがなぜそう判断するのかを理解することができない」「人間がまったく自覚してないパターンに基づいて判断を下す可能性もある(人間には、その判断が正しいか否かを評価すること自体ができない)」「生成AIが政治・司法の領域を支えるとき、人間は既存の社会のパターンを構成する変数として扱われる」といった生成AIの具体的な特徴が語れました。
つまり、「責任」の特徴から考えて「責任が成立しない状況」が生じるわけで、「もしも私たちが、生成AIによる人間的な世界の侵食に抵抗しようとするなら、『生成AIに対して判断を委ねる』という判断に対する責任を堅持するべきです」と戸谷先生。
日本社会において、今後、政治・司法の領域への生成AIを普及させていくなら、そうした判断をなぜするのか、その責任を引き受けるのが誰なのかを、特定する必要があるということが示され、「その責任が、人間に担いうる限界を超えたものであるとしたら、政治・司法の領域へと生成AIを普及させることは、望ましくありません」ということが、結論として語られました。
さいごに
「生成AI」「ChatGPT」といったキーワードはニュースなどでよく耳にするようになりましたが、具体的にどういったものなか、そしてその新たな技術が私たちの生活にどのように影響していくのか。
そのことを今回の講演では「責任」という観点から、「生成AIは人間のあり方をどのように変えるのか?」というテーマにアプローチ。
生成AIという最新技術と、哲学という昔からある人間の根源にかかわる問題を組み合わせ、私たちの生活がどのような影響を受ける可能性があるのかについて、わかりやすく解説されました。
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