≪Study Abroad REPORT≫ オランダ・ハーグ応用科学大学Vol.7/外国語学部英米語学科3年 守田陵汰さん/〝うしろめたさ〟について考えてみました

 こんにちは。

 私は今、インドを訪れています。インド北西部にあるジョードプルという街に滞在しています。

 ヨーロッパの大学では春学期が始まるまでの間、1カ月の長期休暇があり、学生の多くはさまざまなテーマを掲げてフィールドワークに取り組みます。

 
インドの街でさまざまなことを考えました(左は仲良くなったレストランのオーナー)

 今回のREPORTのテーマは「物乞い」です。物乞いは、ヨーロッパにもインドにもたくさんいます。物乞いへの人々の対応の違いについて書こうと思います。

 これまでの文化的、経済的、社会的な境界線が無くなり、新しいつながりが形成されつつある時代になりました。個人が他者とのつながりに与える影響を考えることは、これからの時代を生きる私たちにとって、重要なテーマではないでしょうか。

 テーマを考えるに当たり、松村圭一郎さんの「うしろめたさの人類学」という本を参考にしました。

 現在の日本では、物乞いはほとんど見かけません。しかし、ヨーロッパやインドでは、声をかけてくる物乞いが当たり前のように道端にいます。インドでは、手足に障がいを持つ物乞いや、やせ細った子どもの物乞いをしばしば目にします。すっかり日常の光景になっています。

 そのような光景を見慣れていない日本人は、私も含めて、そのような場面に直面すると、どうしていいか分からなくなり、思わず目をそらしてしまいます。そうこうするうちに「格差の大きい国だから」とか「自分が与えても彼らのためにならない」とか、自分を正当化する理由を探し、何もしないという選択が当たり前になります。

 
▲ジョードプルのマーケットです

 しかしヨーロッパやインドでは、道行く人たちが気軽に小銭を渡したり、声をかけたりするのをよく目にします。もちろん、「弱者に与えることを徳」とする宗教観が根付いていることが要因です。しかし、彼ら彼女らは、物乞いを目の前にして沸き起こる自分の感情に素直なのだと思います。反対に日本人は、できるだけ自分の気持ちを隠し、無かったことにすることへの抵抗がなくなっているのはないでしょうか。

 著書「うしろめたさの人類学」の中で松村さんは「日本は経済化の中で効率化が進み、感情の行き来が排除され、人との関係が深くなることを忌避している」と指摘しています。確かに日本では、お金の動かないコミュニケーションがあまりないように感じます。

 実際に私が今いるインドでは、日常の中で、お互いの感情を嫌でも意識させられる場面が多くあります。

 バスが来なければ、たとえ初対面の人であっても一緒に文句を言い合います。

 道端で寝ている子どもにうしろめたさを感じます。

 すれ違う人が自然に微笑んでくれることがあります。

 人とのつながりを実感します。

 こうした経験を通じて、日本人が自分の感情や他者との関係に対して、無関心になっている部分があると感じます。感情を抑え、効率や秩序を重視する一方で、人間らしいつながりを失っていないでしょうか。

 
▲とても人懐っこい子どもたち。満面の笑顔で応えてくれました

 ヨーロッパやインドの人々を見ていると、仕事中であっても怒りたいときに怒り、ときにはお客さんそっちのけで同僚との話に夢中になっていることがあります。

 でも日本ではどうでしょう。そんなことをすると「自分を管理できていない」と注意され、淡々と働かなければなりません。店員がどのような笑顔でなければならないのか、わざわざマニュアル化している店さえあります。

 海外の人々のようにそのとき自分に湧き上がった感情に向き合い、人とのつながりを持つことが今の日本に再び求められているように思います。

 私も写真を撮らせてもらった時はもちろん、うしろめたさを感じたときは多少でも自分の持っているものを渡すようにしています。小さな行動でも、それがつながりを生むきっかけになると信じています。


もりた・りょうた/徳島県出身。高校2年までは化学と数学が得意で薬剤師を目指していた。徳島県立城南高校を卒業し、2022年に関西外国語大学入学。2024年8月からオランダ・ハーグ応用科学大学で留学生活を送っている


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