トランプ大統領就任演説を同時通訳者の外国語学部・袖川裕美教授が分析ー超簡単な繰り返し英語表現 トランプ流のアピール方法ー

同時通訳者としても知られる袖川裕美・関西外国語大学外国語学部教授が、トランプ米大統領の就任演説を分析しました。


▲袖川裕美教授

(以下は袖川教授の分析です)
◆  ◆  ◆
歴代の大統領で、1961年のケネディ大統領の「アメリカ国民よ。国家が君たちのために何をなしうるかを問うな。君たちが国家のために何を成し得るかを問いたまえ」が格調高い演説の代表とするなら、今回のトランプ大統領の内容は「真逆」だ。誰にでもわかるレベルの英語で、インテリが嫌う「繰り返し表現」を多用する。アメリカらしい理想や民主主義の理念を語る言葉はない。
もっとも特徴的なのは、「かつてない」という表現だ。
 
●like never before
演説はThe golden age of America begins right now.(アメリカの黄金時代が今始まる)で始まる。トランプ氏は、今回も前回の大統領就任演説(2017年)のときと同様に、アメリカ第一主義を掲げ、自身が率いるこれからの4年がいかに輝かしい「黄金時代」になるかを説く。
今回は、アメリカがいかに類例のないものになるかを前回以上にアピールしていた。
like never before(これまでにない)、than ever before(これまで以上に)、has ever seen (before)(これまで見たなかで)など。
 
America will soon be greater, stronger, and far more exceptional than ever before.
(アメリカはまもなく、これまでよりもさらに偉大に、より強く、はるかに例をみないものになるだろう)
 
National unity is now returning to America and confidence and pride is soaring like never before.
(今、アメリカには国民の団結が戻りつつあり、かつてないほど自信と誇りが高まっている)(*文法的に正しくないが原文ママ)
 
●We will do it at a level that nobody has ever seen before.
(これまで誰もみたことのないレベルでやる)
 
●The American Dream will soon be back and thriving like never before.(アメリカン・ドリームはまもなく戻ってきて、これまでにないほど繁栄するだろう)
 
●Like in 2017, we will again build the strongest military the world has ever seen.
(2017年と同様に、私たちは再び世界がこれまでに見たことのない最強の軍隊を構築する)
 
●We’re going to win like never before.
(私たちはこれまでにないほどの勝利を収めるだろう)
 
●We will be strong and we will win like never before.
(私たちは強くなり、これまでにないほど勝利するだろう。)
 
これでもかこれでもかと、自分が指導者として君臨するアメリカの強さをアピールしている。
前回の就任演説(2017年)でも同様の表現が使われたが、2か所だけだった。
 
America will start winning again, winning like never before. 
(アメリカは再び勝ち始める。これまで見たこともないような勝利である) 
You came by the tens of millions to become part of a historic movement the likes of which the world has never seen before.
 (これまで世界が見たこともないような歴史的運動に参加するため、数千万の人がやってきた)
 
今回の演説で、かつてないほど強くなることを目指すこの日は解放記念日とまで言っている。
For American citizens, Jan. 20, 2025, is Liberation Day. (アメリカ国民にとって、2025年1月20日は解放記念日だ)
From this day on, the United States of America will be a free, sovereign and independent nation. (今日から、アメリカ合衆国は自由で主権のある独立国家となるだろう)
トランプ大統領は民主党政権を意識して、就任演説ではバイデン大統領を目の前にして、直接批判もしている。
 
For many years, the radical and corrupt establishment has extracted power and wealth from our citizens.(長年にわたり、過激で腐敗した支配層は国民から権力と富を搾取してきた)
しかも、暗殺を免れた自身のことを、
I was saved by God to make America great again. (私はアメリカを再び偉大にするために神によって救われた)とまで言い切る。
簡単な英語で繰り返し、自分を高めていき、対抗勢力を批判していく論法が、「トランプ語法」と言っていいだろう。
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袖川裕美(そでかわ・ひろみ)。関西外国語大学外国語学部教授。東京外大仏語科卒業。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)修士課程修了。サイマルインターナショナル翻訳部を経てBBCワールドサービス(ロンドン)の放送通訳者。その後、フリーでNHK・BS、BBC、CNNなど。専門は日米同時通訳。
 
●袖川教授のワンポイント 時事英語の勉強のこつ
まず日本語の記事になじんでほしい。そして興味を持った日本語の記事に関係する英語の記事をネット等で探して読む。日本語で内容が分かっていれば、英字の記事も理解しやすくなる。このプロセスは私が担当する授業で行っている。日本語の語彙や知識(これが極めて重要)を増やしつつ、英語力もつける一石二鳥の方法なので、ぜひ試してください。なお、最初はスポーツや芸能などどんな内容の記事でも構わない。自分が関心のある分野から入るのが突破口になる。
 
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