「ラティーノの若者への教育支援を考える」 南山大学・牛田千鶴教授が講演

 イベロアメリカ研究センター主催の2016年連続公開講座「アメリカにおけるヒスパニックパワーの拡大」の第2回講座が11月8日開かれ、南山大学の牛田千鶴教授から「ヒスパニックの子どもと若者への教育支援プログラム」のテーマで話を聞いた。

▲ラティーノへの教育支援について話す牛田千鶴教授

 まず、2010年の米国の国勢調査をもとに、総人口は10年間で2730万人増えたが、その半数以上をヒスパニック・ラティーノが占め、なかでも子どもは高い増加率を示している。調査機関の調べで、2000年~2012年のラティーノの増加率は、0~4歳45%増(増加率3.1%)5~9歳38%増(同2.7%)101448%増(同3.3%)で、全米では子どもの人口が増えないなかで、ラティーノの子どもの数は大きく伸びているという。2020年には、全米の子どもの50%がマイノリティ集団で占めると予測。牛田教授は「将来の米国社会を支える労働力になっていくことから、米国の未来を担うラティーノの子どもたちの教育支援が重要になってくる」と話す。

▲市民や学生約50人が牛田教授の講演に耳を傾けた

 ラティーノの教育状況(2014年調査)について「25歳以上で高校を卒業していない人の割合は、ラティーノ33.5%、白人6.9%」「大学卒業以上の学位を有する人の割合はラティーノ15.2%、白人35.6%」で、教育水準は依然低い。

また、「母語を活用した教育支援プログラム」について、①母語と学力:苦労して第2言語(英語)で学ばせるよりも、母語(スペイン語)を使って難しい概念を学ばせる方が効率的に理解が深まるのではないか②バイリンガル教育:英語の力をつけるまで過渡的な救済措置として母語を使わせ、英語が話せるようになった段階で母語でのサポートをやめる「移行型」などがある。その一方で、バイリンガル教育法は2002年に廃止された。

ラティーノの学生の主な受け皿となる高等教育機関が「Hispanic Serving InstitutionsHSI)」で、認定の要件として▷学部に在籍する全正規生の25%がラティーノであること▷学位取得を目的として在籍する全学生の50%以上が経済的困窮を根拠とする連邦奨学金を受給していること―となっている。全米には435校あり4年制216校、2年制219校となっている。全米ラティーノ学生の60.8%(1836870人)が在籍している。HIS校の特色は、①入学から卒業までの手厚い教育支援②キャリア支援③アイデンティティ確立に向けた試み④コミュニティとのつながりを深める活動―などをあげている。牛田教授からはこのほか、滞在許可のない若者への教育保障に向けた米政府の取り組みなどが紹介された。

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