RESEARCH 教員・研究レポート
【万代池】英語国際学部 長谷川晋准教授
生産性・効率性の追求の先に私たちはどんな社会を思い描くのか?
※関西外大通信「THE GAIDAI」321号の記事を基にまとめています

高校生の頃どうしても入りたい大学があって、その大学に入るために1年浪人しました。ところが大学に入ってから授業を面白いと思えず、最初の2年間はほとんど勉強しませんでした。
そんな時にたまたま読んだエーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』に衝撃を受けました。近代社会で自動機械となった人間は、せっかく苦労して手に入れた自由を自ら投げ出し、孤独や不安から逃れるために新たな権威にたやすく従属する、とフロムは警告していました。この本はナチス政権下でヒトラーを熱狂的に支持したドイツ国民を社会心理学的に分析した本ですが、当時の私は現代にも通ずるメッセージだと感じました。
当時はオウム真理教による地下鉄サリン事件が起こった直後で、多くの若者たちが生きる意味や生きている実感を持てず、新興宗教に惹かれていた時でした。私にはこの本が発している警告はまさに今の自分に向けられたものだと感じたのです。「自由に何でも好きなことをしなさい」と言われるとかえって人は不安になり、生きる意味もやるべきことも誰かに指図された方が楽だと思ってしまうこともあり得るのだと思いました。
そんな悶々としている大学3年生の時、納家政嗣先生の現代国際政治史の授業を受講し、国際関係論という学問の面白さにとりつかれました。その後米国の大学院に2年間留学し、その時に授業の中で扱った民間軍事会社が私の博士論文のテーマになりました。戦争やPKOさえもお金で解決しようとする時代が来たのかと衝撃を受けました。
それ以降一貫して私の関心の基盤にあるのは、「生産性・効率性ばかりが求められる世の中で、私たちは人間性の重要な部分をどんどん失っているのではないか」という問題意識です。森岡正博氏の『無痛文明論』にはいたく感銘を受けました。学生の皆さんにもぜひ読んでもらいたいです。
今の学生たちに伝えたいのは、人の人生はたった一つの授業、たった一人の先生、たった一冊の本との出会いでまるで違うものに変わってしまう可能性があるということです。
Profile
はせがわ・すすむ/1999年上智大学外国語学部英語学科卒業。2012年広島大学大学院国際協力研究科開発科学専攻博士課程(後期)修了(学術・博士)。広島大学TA・RA、外務省国際情報統括官組織第四国際情報官室専門分析員などを経て、2014年関西外国語大学英語国際学部講師、2020年から准教授。専門は国際政治学、安全保障論、平和構築論、紛争解決学。学内のビブリオバトル企画・運営支援にも取り組んでいる。