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STUDY ABROAD REPORT 留学レポート

≪Study Abroad REPORT≫オランダ・ハーグ応用科学大学Vol.11/外国語学部英米語学科4年 守田陵汰さん/言葉にしなければ考えたことにならない

 今回、私はイギリスの名門大学であるオックスフォード大学とケンブリッジ大学(いわゆるオックスブリッジ)を訪れました。

 世界でもトップクラスの学びの場を実際に歩き、大学構内の雰囲気や学生たちの様子を目の当たりにしたことで、「教育とはどうあるべきか」と考えるきっかけになりました。

▲オックスブリッジには学生が落ち着くことができる場所がたくさんあります

 印象に残ったのは、学びの質が、発言の自由度や授業文化と密接に結びついており、教育と言葉のあり方は切り離せない関係にあるということでした。

 私自身、日本の大学で学び、現在はオランダのハーグ応用科学大学に通っています。それぞれの教育環境の中で「どれだけ自由に話せるか」「どれだけ発言が歓迎されるか」はかなり異なるように感じています。

 日本の大学では、講義型の授業が主流です。教員が話し、学生はそれを聞き取るという受動的なスタイルが多いと思います。学生が自由に発言する機会は限られており、特に大人数の授業では、個人が意見を述べる場面はほとんどありません。

 こうした環境では、「間違えないこと」が優先されます。自分の考えを表に出すよりも、無難にやり過ごすという姿勢が自然と身についてしまうように感じます。さらに近年では、誰かを不快にさせる可能性のある発言を避ける空気も強まり、「そもそも発言しないこと」が安全策とされてしまうことがあります。

▲ケンブリッジのパンティング(小舟で川めぐり)です

 これに対して、現在私が学んでいるオランダの大学では、グループワークやディスカッションが中心です。学生には自分の意見を持ち、それを共有することが求められます。言葉にすることで自分の考えを深め、他者とすり合わせながら思考を深めていくプロセスが重視されているように思います。

 ただその一方で、オランダでも、言葉に対して敏感になりつつある空気を感じます。「その表現は今の時代にはふさわしくないのではないか」と言葉を訂正させられるような場面が増えています。率直な意見交換を大切にする文化があるにもかかわらず、そういったことが起きることに現代的な風潮を感じます。

 オックスブリッジでは、教育のあり方と発言文化のつながりを最もはっきりと感じました。両大学では、「チュートリアル」や「スーパーヴィジョン」といった少人数制の指導が行われており、学生は毎週エッセイを書き、それをもとに教員と議論します。

▲オックスブリッジは街全体がキャンパスです

 ここでは発言することが学びの一部であり、むしろ「言葉にしなければ考えたことにならない」ように感じました。自分の考えを出して磨いていくという姿勢が根づいています。

 この3か国での経験を通して感じることは、教育とは「どう学び、どう言葉にするか」が深く関わっているということです。どれだけ自由に発言できる空気を持っているかは、思考の質に直結しているように思います。

 そして今、多様性や配慮のために、言葉を極度に制限しようとする動きが世界中で見られます。誰かを傷つけないよう、発言に慎重になりすぎてしまう社会では、本当の教育や本当の対話は生まれないように思います。

 対話は摩擦を生むものです。しかし、オランダやオックスブリッジで見たように、たとえ誤解や衝突があっても、誠実に学び、誠実に言葉にして向き合うことで、自分や他者を理解できるのではないでしょうか。

もりた・りょうた/徳島県出身。高校2年までは化学と数学が得意で薬剤師を目指していた。徳島県立城南高校を卒業し、2022年に関西外国語大学入学。2024年8月からオランダ・ハーグ応用科学大学で留学生活を送っている

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