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5年間を振り返って/退任の大庭幸男学長に聞きました
関西外国語大学の大庭幸男学長が、2020年4月からの任期を終えて、本年(2025年)3月31日に退任します。退任を前に、さまざまな出来事に対処し、変革期の大学運営に携わった5年間を振り返るとともに、大学での学びについて聞きました。
就任直後には新型コロナウイルス感染症拡大の対応に迫られたほか、1学部・3学科の新設に取り組むなど、キャンパスが激動し、激変する5年間でした。「谷本榮子理事長先生はじめ、教職員の皆様に支えられたおかげで乗り越えることができました」と繰り返しました。
「理事長先生のおかげで大変貴重な体験をすることができました。本来の教育者・研究者に加えて学長という経験もプラスされたことで実り多い人生となりました」
「ある一つの考えを示せばそれぞれの部署の皆さんが積み上げていってくれました。学長自らせわしなく動き回るのは控える方が良いと思うようなときもありました」
■就任直後にコロナ禍が直撃
大庭新学長の就任を待っていたかのように、新型コロナウイルス感染症が猛威を振るいました。入学式は入学生代表6人のみで挙行し、学生の構内への立ち入りは全面禁止、課外活動はすべて中止となり、授業は2カ月遅れてオンラインで始まりました。大庭学長は緊急対策本部の責任者として対応に当たりました。
▲入学者代表の6人のみで挙行した入学式(2020年4月)
「キャンパスには学生が一人もいなかった。これが大学かと思いました。これからどうなるのかという不安に襲われました」
「学生の学ぶ機会を確保し、対面授業と同等の教育の質を保証するために、教職員の皆さんがさまざまな施策を打ち出し、懸命に対処してくれました。感謝の言葉しかありません」
「授業に出て、友人と語らい、クラブやサークル活動にいそしむという当たり前のことができませんでした。学生の皆さんがいかに落胆したか想像するに余りあります。しかし強靭な精神力と忍耐強さでこの逆境をバネに、大きく飛躍してくれました。将来どんな苦しい目に遭っても、この経験を生かしてきっと乗り越えることができると思います」
■〝総合大学版〟の外大目指す
大庭学長の任期中に、国際共生学部が誕生し、外国語学部に英語・デジタルコミュニケーション学科と国際日本学科、英語国際学部にアジア共創学科が設置され、関西外大はその姿を変えていきました。その根底には「読み書きなどの4技能を主眼とする外国語教育を旗印にして受験生を集めていては、困難な状況に陥るのは必至だ」との危機感がありました。
▲学位記授与式で式辞(2021年3月)
「関西外大の指針である〝語学+α〟のαにスポットライトを当て、αの内容を充実させ、特色とすることで、〝総合大学版〟の外国語大学にすること、さまざまな学問の分野をもつ大学にすることが一つの重要な施策だと思います」
「具体的には、αの内容をパラメーター化し、その値を〝国際文化や社会・経済・ビジネス〟〝日本語・日本文化〟〝デジタル〟〝アジアの社会・文化〟などとします。そうすることで外国語学部の総合大学版をつくることができます。受験生には分かりやすく魅力的で、18歳人口減少に耐えうる足腰の強い外国語大学になると思います」
■大学での学びについて考える
大庭学長の研究分野は英語学の統語論、特に米国MITのチョムスキー博士によって創設された「生成文法理論」です。1998年には優れた英語学研究者に授与される市河賞を受賞したほか、2013年から4年間、日本英語学会会長を務め日本の英語学会の重鎮として活躍するとともに、これまで約30人に博士の学位を授与しました。大学での学びについては「学修者本位の教育」「教学マネジメントの確立」に心を砕いてきました。
▲学長賞を授与(2022年3月)
「大学での学びは〝学生が何を学び、身に付けることができたのか〟を重視し、教学面での自己点検・評価に基づいて教育改革を図っていくことが重要です。ポイントになるのは、学習成果を目に見える形にする〝可視化〟と、PDCAつまりPlan、Do、Check、Actionの循環で問題点を洗い出して改善を進めていくことです」
「学生は自らの学習目標を立て、履修科目を選択して受講し、成績と学習状況の振り返りに基づき学習目標を点検・評価し、改善する。大学は学位授与のための教育目標を設定し、そのための教育課程を編成する。演習・講義などの授業を行い、成績評価と学生による可視化された学習成果に基づき教育目標や教育課程編成などを点検・評価し、改善する。学生も大学・教員もPDCAを循環させていくことで改善し、それに基づいて学修者本位の教育につなげることができます」
■外大発展のための3つの柱
大庭学長は、関西外大の発展のための3つの柱として「入学」「教育」「就職」を挙げます。「3つの柱が有機的に機能すれば、関西外大の将来はとても明るいと思います」と期待を寄せています。
▲留学生壮行式で激励の言葉(2023年7月)
「受験生がチャレンジしたいと思う大学。語学の4つの技能だけではなく+αが学べる大学。キャリア教育の充実や就職先のブランド化などで〝何のために働くのか〟を考えることができる大学を目指してほしいと思います」
■大盈は冲しきが若く、その用は窮まらず
学長を務めた5年間を振り返りながら、老子の第45章の「大盈(たい・えい)は冲(むな)しきが若(ごと)く、その用は窮(きわ)まらず」との言葉を挙げました。
▲学生団体との新春交歓会であいさつ(2024年2月)
「本当に満ちているものは空っぽのように見えて、その働きはなくなることがない、という意味です。この言葉にあるように、学長であることに意識しすぎることなく、普段の職務を粛々とこなしがらも、ここぞというときには全力で真摯に取り組む、そのような心構えでいることに努めました」
「研究者として、教育者として、そして学長として、とても貴重な経験をすることができました」
▲学位記授与式で学位記や成績優秀賞を授与(2025年3月)
おおば・ゆきお/
福岡県生まれ。1976年九州大学大学院文学研究科修士課程修了。1997年大阪大学より博士(文学)取得。大阪大学で30年間教育研究活動を行い、その間、大学院文学研究科副研究科長を経て、2013年3月退職、4月より大阪大学名誉教授。同年4月関西外国語大学外国語学部教授として着任、理事・評議員・研究科長を歴任、2020年4月から学長。日本英語学会では理事、評議員、監事、各種委員長を経て、2013年から4年間会長を務め、現在顧問。日本英文学会では理事、監事、編集委員長など歴任。日本学術振興会科学研究費委員会専門委員(1段・2段の4期)、5つの言語系学会を束ねる言語系学会連合運営委員会委員長、東京大学大学院総合文化研究科・教養学部教員評価委員(2回)、東北大学大学院文学研究科外部評価員、九州大学大学院文学研究科外部評価員などを務める。