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大学院/外国語・多分野融合の学び/国際的な環境を生かし、高度な人材を送り出す
※関西外大通信「THE GAIDAI」321号の記事を基にまとめています
人文科学や社会科学系の大学院への進学者数は、欧米などと比べると日本では極端に少なくなっています。しかし、現役の大学院生の多くが「実社会で通用する論理的思考力や課題設定力が身に付く」などと高く評価しており、現状とギャップが生じています。関西外国語大学が進めている「大学院改革」に沿いながら、大学院進学の意義について、菊池清明大学院外国語学研究科長に聞きました。
■イメージに大きな食い違い
中央教育審議会の大学分科会は2021年から、人文・社会科学系の大学院改革のあり方について審議を重ねています。「世界の持続的な成長と発展のために、人文・社会科学の修了者が多様なフィールドで活躍し、適正に評価される社会の実現は欠かせない」として、大学院のあり方や具体的方策について検討しています。
文部科学省は2023年、学部の学生を対象に大学院進学をめぐる意識調査を初めて実施しました。全国の約1万6000人(1万3000が人が人文・社会科学系)が回答しました。
大学院での教育研究のイメージとして、人文・社会科学系での学生のほとんどが「専門的な知識や研究能力が身に付く」と答えたものの「社会で役に立つ能力や技術が身に付く」と考える学生は半数にとどまりました。
一方で、文科省科学技術・学術政策研究所が2023年にまとめた、修士課程在籍者の追跡調査(表1)では、「修士課程に在籍して得られたことで今後役に立つと考えられることは何か」との問いに対し、「論理性や批判的思考力」「データ処理・活用能力」「コミュニケーション能力」「自ら課題を設定する力」なとが上位に上がっています。学部学生のイメージと大きく食い違っていることが分かります。

■いつ進学を決めるのか
大学院修士課程への進学を希望した時期について聞くと、理学工学農学系の学生は約6割が「2年生までに決めた」と答えているのに対して、人文・社会科学系の学生は約半数が「3年生以降に決めた」としています(表2)。キャリアパスなどの不安材料が、人文・社会科学系の学生の大学院への進学に影を落としているようです。早い時期から修士課程への進学の意思を固めることができるかどうかが、大学院への進学者を増加に転じさせるポイントと言えます。

中教審大学分科会の審議では人文・社会科学系大学院の方向性として、高い付加価値を生み出す人材の育成に向けて、キャリアパスの開拓・拡充と、キャリアパスを支える人材養成モデルを求めています。
■5年履修プログラムがスタート
関西外国語大学大学院では2025年度から、大学学部の4年間と大学院博士前期課程1年間の計5年間で、学士と修士の学位を取得できる新たなプログラムがスタートしました。学部4年次に博士前期課程の科目を科目等履修生として履修し、通常より在学期間を1年間短縮します。
中教審の大学分科会は「学士課程と修士課程の有機的な連携で学部生と大学院生の交流を増やし、優秀な学生の社会での活躍や博士後期課程進学を後押ししていくことも有効」との見解を示しており、関西外大は既に実践しています。

■キャリアパスとして認識を
文部科学省が2023年に実施した人文・社会科学系の大学院進学をめぐる意識調査では、キャリアパスや将来のイメージとして多くの学部生が「研究者、大学教員志望者が行くところ」と答え「学部卒よりも就職に有利で希望する仕事が期待できる」と考える学生は少数派であることもわかりました。
まず、大学院の修士課程を学部卒業後の主要なキャリアパスの一つとして認識してもらうことが大切です。また、大学院の修了者は大学教員といった限られたキャリアだけではなく、産業界や中央省庁、地方自治体、国際機関、NPO、NGOなど、幅広く多様な進路があり、大学院で磨き上げた知識やスキルを使って活躍できる場が無限にあることを示す必要があります。
■国際的な大学間連携を推進
大学院のあり方を審議するに当たり中教審の大学分科会は、具体的な方策の一つとして「国際的な大学間連携の推進」を上げています。学生が異文化の環境に身を置いて、グローバルな経験を積むことができるような国際的なネットワークの充実を図り、大学院教育に生かすことを求めています。
55カ国・地域の419校と協定を結び、年間で2000人を超える海外留学生の派遣・受け入れを行っている関西外大では、この国際的な環境を十二分に生かした大学院教育を実現できます。
きくち・きよあき/関西外国語大学大学院外国語学研究科英語学専攻博士後期課程第1期生。大阪大学博士(言語文化)。東京都立大学・首都大学東京教授、オックスフォード大学英文科招聘研究員、オックスフォード大学ユニバーシティ・コッレジ上級客員研究員、立教大学教授を経て、2018年関西外国語大学教授。2024年4月から関西外国語大学大学院外国語学研究科長。2025年4月から関西外国語大学学長。