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概要

外大通信デジタルブック

Mandai-ike万代池外国語学部 教授 新井 肇答えの出ない問いを問い続ける万代池は、大阪市住吉区にある池。周辺は万代池公園として整備されている。本学は1953 年、近くに関西外国語短期大学を開設。草創の地として受け継がれている。あらい・はじめ/京都大学文学部哲学科卒。兵庫教育大学大学院学校教育研究科修士課程修了。1976年より埼玉県の公立高等学校教諭、2008年より兵庫教育大学大学院教授として勤務。2017年に関西外国語大学へ。教育心理学、教育相談、生徒指導論を担当。著書に『「教師を辞めようかなと思ったら」読む本』(明治図書,2016,単著)、『現代生徒指導論』(学事出版,2015,編著)等。Profile 人間に関する学問研究の多くがそうであるように、私の専門であるカウンセリング心理学や生徒指導・教育相談に関する研究も、「これが正解だ」というものが、なかなか(あるいは永遠に)みつからない(かも知れない)問いに満ち満ちています。そのため、悪戦苦闘しながら模索を繰り返す日々を送っています。学生の皆さんにとっても、大学での学びの多くは、そのような問いを問い続ける営みであると思われます。 作家で精神科医の帚木蓬生は、イギリスの詩人キーツ(JohnKeats, 1795 - 1821)のNegativeCapability (負の力:不確実さや懐疑の中に居続けることができる能力)という言葉をとりあげ、学びや人生における重要性を指摘しています(『ネガティブ・ケイパビリティ答えの出ない事態に耐える力』朝日選書,2017年)。  今の社会においては効率よく結果を出すことが求められ、問題解決のために手早く正解を得ようとする傾向がみられます。そのため、解くことが難しいと思われる問題に出会うと、思考停止に陥り、通説や多数意見に無批判に飛びついてしまうことが少なくありません。正解と見えるものであっても、こまやかに内容を吟味し、様々な場面に当てはめて妥当性を検証することが必要なのではないでしょうか。解決できない(できそうにない)問題と向き合い、答えの出ない宙ぶらりんの状態の中で粘り強くもちこたえる力、それが、Negative Capability に他なりません。 よくよく考えると、私たちの人生において、解答がすぐに出る事柄というのはほんの一部に過ぎません。性急に解答を求めようとせずに熟慮する、あれこれと悩むことを回避せずにむしろ悩みを楽しむ、そんな人生態度につながる知恵を、大学での学びを通じて身につけてほしいと願っています。The Gaidai 関西外大通信 No.292 Winter, 2018 2018年2月23日発行 発行:関西外国語大学 〒573-1001 大阪府枚方市中宮東之町16-1 http://www.kansaigaidai.ac.jp/