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概要

外大通信デジタルブック

21――大学では英文学を学んだそうですが、専門は高等教育学です。どういう経緯ですか。秦 大学卒業後、いったん勤めた後、1980年代にイギリスのオックスフォード大学に留学しました。サッチャー首相(在任1979?1990年)時代で、イギリスでは民営化をはじめ大改革が進められていました。大学改革も例外ではなく、大学側と政府の確執をつぶさに見ることができ、資料も入手でき、おもしろい研究対象だと高等教育学の道に入りました。研究成果を後に「変わりゆくイギリスの大学」などで紹介しました。――高等教育学とはどんな学問でしょうか。秦 大学はこれからどうあるべきかを行政や政策、システムなどの側面から研究します。私の場合は、特に英国の大学を対象としていて、改革にメリットとデメリットがある中で、日本の大学改革にプラスとなるものを取り入れられないかと考えてきました。英国では大学の研究評価が導入され、補助金分配機関ができましたが、日本でも英国をモデルに学位授与評価機構ができました。 日本では国立大学が法人化された2004年前後から高等教育学が注目されました。私はいくつかの大学改革関連の公職に就き、現在も国立大学協会の政策研究所運営委員と日本学術振興会の大学教育再生加速プログサッチャー首相時代、オックスフォード大で高等教育学の道へ日英欧研究学術交流センター(RIJUE)を関西外大に移設ラム委員会委員を務めています。――今年3月に「パブリック・スクールと日本の名門校」(平凡社新書)を上梓されました。秦 高等教育から中等教育にも関心の対象が広がりました。英国のパブリック・スクールと日本の中高一貫校への聞き取り調査をもとに比較を試みたものです。パブリック・スクールについては、ある校長が「(生徒が)骨のある人間になることを願っている」と語っていたのが印象に残りました。学業だけではなく、一人の人間として生きるよりどころを育ててあげたいという考えは、日本の学校も学んでほしいところです。 この本の出版が縁となり、新たな動きも出てきました。取材を通じて知り合った平秀明・麻布学園校長と私のトークイベントが8月17日、東京の代官山蔦谷書店で開かれることになりました。また、パブリック・スクール出身のオックスフォード大学の学生が9月中旬に来日することになりました。関西外大の学生との交流の機会をつくろうと計画しています。――関西外大では「イギリス学概論」や「イギリス学研究」を担当しています。さらに対象が広がったようですが。秦 これまでイギリス学を教科科目としては担当したことがなかったのでうれしく思っています。前任の広島大学では、英国・欧州との研究学術交流を通じて日本の大学改革を支援する日英欧研究学術交流センター(RIJUE)長を務めましたが、私の異動とともにRIJUEも関西外大に移設され、研究支援センターのサポートもいただけることになりました。 本学の学生は純粋で素直な若者が多く、大きな可能性を秘めている印象です。学生たちにはイギリスの若者や研究者との交流を通し、一回りも二回りも成長してもらいたいと思っています。一番願っているのは、イギリス学研究で大学院まで進む学生が出てきて、後継者に育ってくれることです。――大学卒業後、在日米国大使館勤務という異色の経歴をお持ちですね。秦 英語を使って仕事がしたいという思いがあり、企業より公的な機関がいいと応募しました。大使館で米国務省の事務を担当する部署に配属され、マイク・マンスフィールド大使(在任1977?1988年)らに仕えました。大使や領事らの手伝い、催しのやりくりなどが主な業務で9年間勤めました。――研究や教学以外で楽しんでおられることはありますか。秦 広島時代の2年半ほど前に日本画を始めました。絵の具の準備やら、後片付けやらといろいろ大変ですが、上村松園が好きで、いつかは、あのような楚々とした美人画を描いてみたいものだと励んでいます。オックスフォード大学で5月に開催されるSummer VIIIs(カレッジ対抗ボートレース)近著「パブリック・スクールと日本の名門校」(平凡社新書)オックスフォード大学に38あるカレッジの一つ、モードリン(Magdalen)・カレッジ(1458年設立)。卒業生や教授ら9人がノーベル賞受賞