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概要

外大通信デジタルブック

25――研究ではカナダとフィンランドの制度に焦点をあてています。まず、カナダについて教えてください。伊東 カナダの言語教育政策の特徴はバイリンガル教育です。カナダでは、英語とフランス語が公用語であると法律で規定されていますが、それは連邦政府のレベルにおいてのことです。州政府のレベルで両言語を公用語に位置付けているのはニューブランズウィック州のみです。ケベックはフランス語が公用語で、母語の地域です。カナダでは、その公用語政策の一環として国家公務員になるためには英語とフランス語の両方の習得が必要なため、バイリンガル教育が盛んになりました。 そのきっかけとなったのが1965年から導入が始まったイマージョン教育です。カナダのイマージョン教育の主流は、英語を母語とする子どもにフランス語と英語で教科指導を行う形態です。具体的には、英語が母語の子どもにフランス語で算数や理科を教えるというような授業です。わずか26人の実験クラスから始まったカナダのイマージョン教育は、今では30万人以上が履修するほど、実施校が拡大しています。――フィンランドは、どんな言語教育政策なのでしょうか。伊東 フィンランドの言語教育政策にはEUにおける言語教育政策が色濃く反映されています。EUでは、義カナダとフィンランド特色ある言語教育政策日本の小学校英語教育導入課題は適切な教員確保務教育段階で母語以外に2つの外国語の学習が推奨されています。フィンランドでは、すべての小学生に少なくとも2つの外国語を学ぶことを義務付けています。 外国語のうちひとつは必ずフィンランドの第二国語、つまりフィンランド語が母語ならスウェーデン語を、逆ならフィンランド語を選択。もうひとつには、英、独、仏語等から選択できます。多いのは英語です。到達点がより高い言語は小学校3年生から、やや低いものは、6年生から学習を開始する第二国語を除いて、中学1年生から学習がスタート。多くの小学生が英語とフィンランドの第二国語とその他の外国語の3カ国語を学んでいます。さらに希望すれば高校卒業までに全部で5つの外国語を学習できます。 通常の教科としての外国語教育に加え、カナダのイマージョン教育に相当する、算数や社会という教科を外国語で教えるC L I L(Content andLanguage Integrated Learning)というプログラムも行われています。これも教授言語は英語がほとんどです。 また、フィンランドでの教育政策で高く評価されている点は、学習内容の理解に困難を感じている学習者への支援が手厚いことです。社会福祉の理念が学校の授業の中で実現されています。――日本でも小学校の英語授業が始まります。2020年度からの新学習指導要領では、中学年で「外国語活動」を、高学年で正式教科の「外国語」を指導することとなっています。課題は残っていないのでしょうか。伊東 日本の小学校の英語教育は、基本的に担任を中心に行われるべきものと考えられています。しかし、多くの担任の先生方が不安を抱えたままです。教科としての外国語は専科の先生に任してもよいのではという意見も聞かれますが、英語教員免許の取得者は、現行の制度では、原則、中学校と高等学校でしか教えられません。小学校で教えるためには、小学校の教員免許が必要になります。小学校教員と英語教員の両方の免許を持つ人がいればいいのでしょうが、数は少ない。本学の英語キャリア学部小学校教員コースのような存在は、私学でもすこしずつ増えてきましたが、まだ希少です。小学校で英語を教科として教える人材の確保が課題と言えるでしょう。 フィンランドでは、英語の専科教員は、小学校から高等学校までどこでも教えることができます。この制度は、日本の小学校英語教育導入時の過渡期を乗り切るだけでなく、持続可能な形で小学校での英語教育を続けていくための解決策になるのではないでしょうか。――最後に、大学を目指す受験生や、現役の学生たちにアドバイスを。伊東 英語はコミュニケーションの道具だけでなく、学習の手段だと自分に言い聞かせてください。英語を使って何を、どうやって学ぶのか。留学を志向するのであれば、その観点を見失わないようにしなければなりません。フィンランド・ユバスキュラ市内のスキー場で春スキー