ActiBookアプリアイコンActiBookアプリをダウンロード(無償)

  • Available on the Appstore
  • Available on the Google play

概要

外大通信デジタルブック

25 | THE GAIDAI No. 299 Autumn, 2019――スペイン語、ラテンアメリカに興味を持たれたきっかけを教えてください。 大学受験のときでしょうか。英語を選択する人が多い中、人と違うことを勉強したいと思っていたところ、テレビなどで聞いたスペイン語の響きにひかれたのがきっかけだったと思います。関西外大でスペイン語やラテンアメリカについて学ぶうちに、どんどん興味が湧いてきました。――大阪外国語大学(現・大阪大学)大学院に進み、1978年、政府交換留学制度でメキシコ国立自治大学歴史研究所に国費留学されました。 今のように簡単に海外へ行く時代ではありませんでした。しかもアメリカではなくメキシコ。当然インターネットなどもありませんでしたので、自分なりに情報収集して荷物を詰めていましたね。夜遅くに着いたメキシコシティの夜景は今でも覚えています。衛生面は日本とは大違いですし、時間にもルーズでバスの時刻表なんてあって無いようなもの。それでも当時のメキシコは経済状況がよく、私は中流家庭に下宿させてもらいました。まさに映画「ROMA/ローマ」(アルフォンソ・キュアロン監督)の世界です。昨年のベネチア国際映画祭金獅子賞や今年の米アカデミー賞監督賞などを受賞した映画なのですが、70年代のメキシコシティのローマ地区の家が舞台。実にリアルに描かれていて、当時の私の下宿先での生活の記憶が一気によみがえりましたね。ラテンアメリカというと陽気なイメージを持たれがちですが、その裏にある〝人間が生きていく厳しさ?のようなものを肌で感じた留学生活でした。――毎年、メキシコを訪れておられます。変遷を感じますか。 ずいぶん近代化されました。特にメキシコシティはコンビニやおしゃれな店もたくさんあるし、東京とほとんど変わりません。交通インフラなども整備され、一昨年、昨年、今年―と目を見張るスピードで都会化が進んでおり、私も訪れる度に驚かされます。昔はバスや地下鉄などシートはボロボロで底も抜けそうだったのに、すっかりきれいになっています。1994年のNAFTA(北米自由貿易協定)締結の影響が大きいのでしょう。一方で農村の荒廃が進み、犯罪に手を染めなければ生きていけない人々が出てくるなど、暗部も浮き彫りになっています。いずれにしても、隔世の感がありますね。――関西外大ではラテンアメリカ学研究とスペイン語の授業を担当されています。 スペイン語にとどまらず、ラテンアメリカの歴史や人文学を学んでもらうことは、日本を知ることにもつながります。関心を持ち、勉強するということは人生を豊かにすることです。歴史や文化、自分の住む世界と異質な世界を知ることは時間がかかりますが、大学でそのきっかけを得て、何かをつかんでもらいたい。大学時代は、学ぶための絶好の機会と場所を与えられているのですから。授業では、学生たちそれぞれのいいところを伸ばし、探究心を育んでもらえるよう心掛けています。今は、インターネットの普及のため、映像や情報が簡単に手に入る時代です。そのため、すでに〝知ってしまった気?になっても仕方ありません。しかし、玉石混交の情報に流されず、自らが貪欲に学び調べ、経験してほしいと思います。――先生にとって、ラテンアメリカの研究とはどのようなものでしょうか。 大げさかもしれませんが、「共に生きてきてきた世界」でしょうか。しかも研究すればするほど、分からないこと、知らないことが出てきます。だから、まだまだ知りたいし、勉強もしないといけないと思っています。――本学イベロアメリカ研究センター長も務めておられます。スペインとラテンアメリカ地域の研究活動の充実と学生の教育に資する活動を促進する目的で設立された機関です。 ラテンアメリカのみを取り上げるのではなく、他地域との比較の中でラテンアメリカの特徴を分かってもらえるように、相対的な提示の仕方をするようにしています。多面的に知ることでラテンアメリカの理解度が増すと考えています。たとえば、今年の連続公開講座は「外国人労働者との共生―ラテンアメリカと日本を結ぶきずな―」というテーマでしたが、日本の政策はどうなっているのか、また日系ペルー人の労働者やその家族についてなどを知ってもらえればと考えました。2016年度は、トランプ米大統領と不法移民の問題やその背景を知ってもらおうと、「ヒスパニック」を取り上げました。ラテンアメリカだけに焦点を当てずとも、日本や世界で起きている事象と関連付けて相対的な視点で見ることでラテンアメリカを身近に感じ、興味や関心を持ってもらえるのではないかと思います。ぜひ、学生のみなさんに聴講してもらいたい。別世界のことと思わず、「知りたい」という好奇心を持ってもらえたらうれしいですね。大学院時代のメキシコ留学彼らの〝生きていく厳しさ?を肌で感じ取った日々大学は絶好の学びの場イベロアメリカ研究センター「多面的に学んでラテンアメリカを知ってもらいたい」イベロアメリカ研究センター公開講座メキシコ留学時代1モンテ・アルバン遺跡で2テオティワカン遺跡で3ウシュマル遺跡で123