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25 | THE GAIDAI No. 300 Winter, 2020妻木晩田遺跡に関わり20年森浩一・同志社大教授に師事「これは何だろう」から始まる遺跡から日本海を望む上空から見た妻木晩田遺跡親子見学会で妻木晩田遺跡の説明をする佐古さん(右)復元された建物群――鳥取県西部の妻木晩田遺跡(国史跡)の保存運動に取り組まれてきました。 妻木晩田遺跡は、広さ170㌶に及ぶ日本最大級の弥生時代の遺跡です。遺跡は1997年2月に、ゴルフ場建設に伴う発掘調査で見つかったことが初めて報道公開され、私も現地に行きました。すごい遺跡がみつかったと、鳥肌がたちました。この遺跡は、壊してはいけないと思いました。鳥取は私の故郷ですから、知らない顔はできない。それで、その年の9月から、地元市民と一緒に保存運動を始めました。 一人でも多くの人に見てもらうため、週末に現地に通い、親子見学会を開いたり、発掘現場の横でコンサートを開催したりしました。現地に来られない人のために、あちこちで写真パネル展もやりました。ボランティアの出前講演会は、多くの考古学の先生方も協力してくれて、毎月のように開催しました。――遺跡の保存が決まります。 遺跡の保存問題がなかなか進展しないので、運動を全国展開するために、99年2月に市民団体「むきばんだ応援団」を立ち上げました。が、思いがけず、その2カ月後に遺跡の全面保存が決まりました。考古学界では、奇跡だと言われました。でも、私は、「ゴルフ場を作るより遺跡を残して良かった」と、皆さんに言ってもらえるまで、遺跡の保存を訴えた責任があると思い、「むきばんだ応援団」として、妻木晩田遺跡の普及・活用に取り組むことにしました。 応援団の主な活動は、月1回、遺跡のある米子市内で、考古学・古代史を学ぶ市民講座「むきばんだやよい塾」と、遺跡周辺の植物観察をする「むきばんだを歩く会」です。やよい塾の塾生有志が、「妻木晩田遺跡ボランティアガイドの会」を結成し、今も毎日遺跡のガイドをしています。「むきばんだ応援団」は、2018年にサントリー地域文化賞を受賞しました。19年には結成20周年を迎え、「むきばんだ応援団」発起人でもあるフォーク歌手の小室等さんと考古学者とでトーク&コンサートを開催しました。――妻木晩田遺跡の重要性はどの辺にあるのでしょうか。 まず、日本最大級という規模の大きさです。弥生時代は稲作が始まる時代なので、大きな遺跡は通常、平地にあります。これほど大規模な集落が山の上にあるとは、弥生研究の常識を揺るがす発見でした。 その集落に隣接して、山陰特有の四隅突出型墳丘墓が密集していました。集落と墳墓群がセットでみつかったのも、初めてでした。さらに、当時の最先端の技術である鉄器が470点も出土しています。本州ではずば抜けて多い数です。その鉄器から、大陸や北部九州と交流をもちつつ、独自の技術をもっていたことがわかりました。そういう学問的な価値とともに、遺跡から日本海を見晴らす壮大な景観も魅力です。この海の向こうに大陸があり、海を越えた交流が豊かさを育んでくれた。まさに日本の原点を思わせてくれる景観だと思います。――考古学の道に進まれたのは何かきっかけがあったのですか。 もともと考古学に興味はありませんでした。進学した同志社大学に森浩一という全国的に有名な考古学の教授がおられると聞いたので、2年生の時に履修しましたが、あまり熱心な学生ではありませんでした。でも、その年の夏休みに帰省した時、鳥取の古墳から彩色壁画が発見されたというニュースが流れ、それを解説された森教授が「古代の鳥取にはすごい文化があった」と話されたので、興味をもちました。 大学に進学して、鳥取県は県外の人には印象の薄い県なのだと思い知った頃だったので、考古学という窓からのぞいたら、いったいどんなわが故郷が見えるのだろう?と思って、森教授の研究室を訪ねたのが、考古学に進むきっかけとなりました。――考古学の魅力とは何でしょうか。 歴史が苦手だという人は、年号や人名などの暗記科目と思っているからではないですか。考古学の研究対象は、過去の人々が残したモノです。発掘で掘り出したモノから、過去を復元するのが考古学。それは、自分でモノを観察して、「これは何だろう」と自分で考えることから始まります。今はネット社会で情報があふれ、「これは何だろう?」と想像してワクワクする機会を私たちは奪われています。考古学は、ワクワクすることだらけです。また、昔の人間が残したモノには、あらゆる人間の活動がつまっています。歴史に関心がなくても、植物、岩石、建物、楽器、アクセサリーなど、誰でも何か接点がみつかると思います。 だから、間口は広く親しみやすいはずなのに、なんだか難しい学問だと思っている人が多いのが残念です。それでいま、妻木晩田遺跡に続く2つめの夢、ウェブサイト「全国子ども考古学教室」を作成中です。今年の夏には、お披露目イベントも計画しています。子ども向けとはいえ、きっと大学生にも大人にも外国人にも、小・中学校の先生たちにも、喜んでもらえると思います。むきばんだ