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概要

外大通信デジタルブック

21 | THE GAIDAI No. 301 Spring, 2020――日本を研究対象にしていますが、日本に興味をもった理由は何でしょうか。 化学関連の技術者だった父は、1980年代に日本でビジネスに従事しました。その頃、父が、日本で客に緑茶を出す意味について説明してくれたのを覚えています。文化の型に関する興味深い話でした。日本と日本人はとてもおもしろい存在だと思われていたし、バブル期の日本は、世界中のあらゆる人々から関心をもたれていました。――学生時代に日本について学んだことで、印象に残っていることは何でしょうか。 アメリカ・インディアナ州にあったイエズス会の高校に通いました。イエズス会はフランシスコ・ザビエルの時代から日本に深い関心と敬意をもっていました。私は3年生のときの教師から日本の宗教、特に禅宗について教わりました。 私の現在のクラスの留学生たちは、日本に関心をもつポップカルチャー世代ですが、私は日本の禅に学問的な関心を寄せた世代の最後のグループでしょう。鈴木大拙ら日本の知識人は、禅は日本文化の神髄であると指摘しましたが、私が禅に興味をもつ出発点になりました。――日本の宗教のおもしろさはどこにあると感じていますか。 日本の宗教を実地調査しながら学ぶことは、とてもわくわくするものでした。香やろうそくのかおりをかぎ、鐘の音、読経の声、賽銭箱に硬貨が落ちる音を聞く。また、絵画、建築、木々、人を見る。人々は、笑っていたり、泣いていたり、考え深そうに一人でいたり、気楽に仲間といたりする。興味はつきず、感覚が研ぎ澄まされるのです。――科研費補助金対象の研究として、四国遍路の研究に取り組みました。 マンチェスター大学のイアン・リーダー教授との共同研究であるこのプロジェクトは、過去に参加したなかで最もおもしろいものでした。思いもしなかった場所を訪れ、たくさんの魅力あふれる人々と会うことができました。四国遍路の巡礼者は、止まることなく1200キロにおよぶ八八カ寺の旅をし続けるのです。遍路に執着することを表すのに〝四国病?という言葉がありますが、研究では、何人かの素晴らしい人物も紹介しました。私たちの研究は、国外で巡礼学に取り組む人々にと四国霊場四国霊場成田山不動尊(大阪府寝屋川市) 大神神社(奈良県桜井市)り、興味深いものであり続けるだろうと考えています。――四国遍路の魅力は。また、お気に入りの札所(霊場)はどこでしょうか。 遍路の興味深さは、生き物に似たところにあります。取り組んで15年になりますが、たくさんの変化や進化を目にしてきました。実際、しばしば四国に行きますが、そのたびに、見たこともないものに出合います。例えば、今では、スペインの巡礼道サンティアゴ・デ・コンポステーラを歩いたヨーロッパの遍路がたくさんいます。 好きな遍路寺は、道後温泉の近くにある松山市の51番札所・石手寺です。この寺は民俗学に関する重要な寺の一つであり、独特の雰囲気を醸し出しています。石手寺には、涼しくて、ぞっとする2つの洞窟巡りもあり、魅力的な宗教的実践を行うことができます。――関西外大では、「アジアの宗教と哲学」などの科目を担当しています。日本人の学生がこの科目を学ぶ意義は。 日本の教育では、宗教についてあまり教えませんが、学生たちは、世界中からくる留学生から日本の宗教について質問を浴びせられます。私の仕事は、日本の学生が、自国の宗教について社会学的に優れた説明をできるよう訓練することです。アジアにおいては、哲学と宗教は、密接に結びついており、哲学を学ぶことは、外大生が批判的思考力を培うのに役立ちます。高い目標をもった外大生のために、関西外大はたくさんの選択肢を用意しています。そうした機会を生かすためには、学生が強い意志をもつ必要があります。――今後、どのようなテーマに取り組む予定でしょうか。 最新の研究は、修験道における宗教的な修行や遍路寺での修行の中で、岩登りがどんな役割を担ってきたかに焦点をあてています。崖につるした鎖を行者が上る「鎖禅定」と呼ばれる行場なども含まれます。関西、四国中の霊山にある有名な登山場を訪れ、研究を始めています。人が悟りにいたる道を究めるために危険な行為に取り組む――なんと魅惑に満ちたことでしょう。イエズス会の高校で禅を学ぶお気に入りは51番札所・石手寺修行における岩登りの役割を研究