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概要

外大通信デジタルブック

25 | THE GAIDAI No. 303 Autumn, 2020――大学卒業後、高校の国語の教員になられます。もともと教職を志していたのですか。 大学は教育学部心理学専攻です。後に文化庁長官となるユング派心理学の草分け、河合隼雄先生に臨床心理学を学びますが、深層心理から文化の深層に潜む元型を研究することから、文化論、さらに言語に興味をもつようになりました。 当時は臨床心理士のような資格もありませんでした。そこで、心理学と同様、人に向き合える仕事ということで教員を選びました。生徒と関わっていくうえで、心理学で学んだことが生かせるのではないかと考えたわけです。――初めての教育現場での生活はいかがでしたか。 大阪府東大阪市内の府立高校に15年間勤めました。とてもユニークな高校で、3年間クラス替えがなく、1年生の担任教員がそのまま3年生まで持ち上がります。また、ほとんどの学校行事は生徒の手作りで行われます。例えば、修学旅行は生徒が行き先の施設などと交渉して内容を決めるといった具合で、それだけ中身の濃い関係ができました。 部活は卓球部の顧問でした。私自身も高校の途中まで卓球をしており、強くなるためには、世界レベルを知らないといけないと思い、国際審判員の資格を取得しました。運よく、1983年に卓球の第37回世界選手権大会が東京で開催されるのに合わせ、まとまった数の国際審判員の養成が行われたときでした。 思いがけないことに、この大会の男子団体決勝、中国対スウェーデン戦の主審の大役を任されました。それまで、インターハイ決勝の主審を務めたことはありましたが、さすがにレベルが違います。人生最大の緊張感を味わいました。 生徒に教えられたこともあります。3年間の持ち上がりにも関わらず、中退する男子生徒がいました。規則違反をしたので、「何でそんなことをした」と聞くと、「理由を聞いてくれたのは先生が初めてや。ありがとう。頑張るわ」と感謝されるような形になりました。もう少し頑張っておれば、退学させずにすんだと思うと悔いが残りました。これを教訓に、「孤独は向き合わなければならないが、孤立させてはいけない」が持論になりました。大阪府が推進する教員志望学生のためのイベントの案内ポスターに登場した津田教授学生時代、恩師の河合隼雄氏(右から2人目)と(中央奥が津田教授)主審を務めた1983年の卓球世界選手権男子団体決勝でスウェーデンチームのプラカードを掲げて入場大阪府庁を訪れたロンドン五輪卓球女子団体銀メダルの平野早矢香さんと――その後は、大阪府教育委員会に移られ、教育行政の仕事が長くなりますね。 府立高校長を挟んで約20年間在籍しました。中でも、教育政策の企画・立案、特に府立高校の教育改革に長く携わりました。府のグローバルリーダーズハイスクールやエンパワーメントスクールといった名称は私が考案しました。伸びる生徒を伸ばし、支える必要がある生徒は支え、格差を縮めながらみんなを伸ばそうとのコンセプトが基礎になっています。――関西外大では「日本語学」などの科目を担当し、「言葉の力」「教師の力」を高める必要を説かれています。 グローバル化が進んでくれば、多様な価値観をもつ人々をつなぐのは言葉です。言葉は自分を振り返るときも大事だし、他者に向かうとき、社会に向かうときも大事です。つまり、対自、対他、対社会においてたいへん重要なツールになります。多様化した社会で言葉をしっかり伝える力、使いこなせる力が欠かせなくなっています。 また、AI(人工知能)時代だからこそ、意図することをロジカルに正確に伝えることを追究するとともに、人類が言葉を使う意味も深く考えていく必要があると思います。 一方、教員のかつてのイメージは博学、知識があることでしたが、その役割は大きく変化しており、不透明な時代でも生き抜いていける力をつけることが教員の役割になっています。 時代の要請に応えられる教育をしなければならないということが、コロナ禍ではっきりしました。例えば、コミュニケーションツールとしてICT(情報通信技術)を使いこなす重要性が高まっています。教員は教育方法の熟達者、開発者であるとともに、理論と実践を統合すること、つまり、「理論と実践の往還」が大切で、教員は理論家であるとともに、自分を振り返る内省的、省察的な実践家であるべきだと思います。河合隼雄氏に臨床心理学を学ぶ大阪府教育委員会で府立高校改革に携わる教員は理論と実践の往還が大切卓球の世界選手権決勝で主審務める