アメリカから関西外大に留学しているRyan Green(ライアン)さん。
流暢な日本語で話すそのレベルは日本語能力検定試験の最高レベルN1を取得するほど。
そんな彼の日本語勉強法として、
- アプリ(Anki、DISCORD)の活用
- YouTubeで大好きな動画を見る
といったことを挙げてくれた。
記事では、その具体的な中身についてご紹介します!
*インタビュー内容は取材時のものになります。
留学生プロフィール

留学生プロフィール
- Ryan Greenさん(愛称:ライアンさん)
- マーシャル大学(Marshall University)
- 専攻 Japanese and communication Studies

飛行機が苦手で怖かったけど、がんばって日本にやってきました。
ライアンさんが日本・日本語に興味をもったきっかけ

ライアンさんと日本との接点は10歳くらいのとき、日本のアニメを自宅で見ていたことが最初だった。
『ドラゴンボールZ』などを視聴していたが、英語吹き替え版だったので、当時は「日本のアニメ」という認識はなく、ただ単純にアメリカで放映されているアニメとして楽しんでいた。
そんなライアンさんが本格的に「日本のアニメ」を観るようになったのは高校生のとき。

日本のアニメが大好きになるきっかけは、実は「osu!」っていう音ゲー(音楽ゲーム)なんですよ。
osu!(音ゲー)をきっかけに日本のアニメにハマる!?

このゲームの中に日本の楽曲がたくさん入っていて、特にアニソン(アニメソング)が多かった。
そこから、
「この曲なかなかいいな」
「テーマソングになってるアニメってどんなのだろう」
と興味が広がり、実際にその作品も見てみようとなる。

それでいろんなアニメにアプローチするようになり、コノスバ(『この素晴らしい世界に祝福を』)とか、ハルヒ(『涼宮ハルヒの憂鬱』)とか、夢中になって見ていました。
英語字幕でアニメを見て、日本語に興味をもつ

音ゲーをきっかけに日本のアニメにハマったライアンさんは、英語字幕でさまざまな作品を視聴した。
そこでアニメのキャラクターたちが話す日本語にも興味をもったわけだが、特に気になったのが作中に出てくるジョークなどの「笑い」の部分だった。
「笑い」は文化的な背景を知っていないと伝わらないギャグなども多いことから、日本語のセリフをそのまま英語に翻訳しても伝わらないことが少なくない。
そこで、アメリカで通ずるユーモアに置き換えられ、意訳した字幕が付けられる。

作品を見ていても意訳されているのはわかるんですけど、日本語ではどういった表現なんだろう? 本当の意味はなんだろう?って。そこを知りたいと思いました。
アメリカの視聴者のために行われる意訳は、笑いのニュアンスを伝えるための「工夫」になるわけだが、その中身は翻訳者に一任され、作品の本質的な部分とは別物になる。
だからこそ、オリジナルの日本語の表現に興味をもったわけだが、そのことがライアンさんが日本語を勉強してみようと思うきっかけとなった。
ライアンさんの日本語勉強法

というわけで、日本のアニメを英語字幕で見たことをきっかけに日本語学習にめざめたライアンさん。
それが17歳のときで、独学で日本語の勉強に取り組み始めた。
具体的には、
- GENKI(げんき=日本語の教科書)
- Anki(アプリ)
- DISCORD(アプリ)
を活用し、特に自身にフィットしたのがAnkiを活用した日本語の習得だった。
日本語学習に最適なアプリ「Anki」をフル活用

Ankiとは、「忘却曲線に従い、自動で暗記カードを表示してくれる」アプリのこと。
自分の覚えたい単語や文章を編集し、登録した言葉がフラッシュカード(暗記カード)で出てくる仕組みで、日本語学習に限らずAnkiはさまざまな勉強の補助ツールとして活用されている。
また、Ankiではフラッシュカードの集合体を「デッキ」としてまとめることができ、他のユーザーが作成した「よく使われる日本語」などのデッキをダウンロードし、自らの学習に活用したという。

オープンソースとして公開されている他人の「デッキ」を活用したり、自分でも作成したりしながら、日本語を覚えていきました。
DISCORD(アプリ)を用いて日本語を学習

前回ご登場いただいたスペインから留学中のフアンさんと同じく、ライアンさんもDISCORDというアプリを活用し、現在も利用しているという。
アプリ内ではテーマごとにさまざまな「部屋」があり、例えば「日本語学習」の部屋に行って、ボイスチャットで日本の方々と対話をする。

「聞き専」っていうんですけど、あまり言葉が聞き取れない最初の頃は、聞く専門で入っていました。
Ankiで継続的に単語を勉強していたので、会話の中で聞き取れた単語をもとに前後の意味を考える。
また、例えば会話の中で「その」という単語がよく出てくるので、『その』ってどういう意味なんだろう?と調べて、意味や用法などを覚える。
そうしたことを繰り返すことで少しずつ語彙を増やし、慣れてくると「聞き専」を卒業し、自らも発言した。

テーマはさまざまで、アニメやゲームはもちろん、その日勉強した日本語の表現を試してみたり、さまざまなテーマでお話をし、いろいろな人たちと会話を楽しみました。
周囲に日本の方がほとんどいなかったライアンさんにとって、ディスコードが日本語をアウトプットする場となった。
始めた頃はほぼ毎日利用し、そのなかでリスニングやスピーキングのスキルを磨くとともに、日常的に使われる“生きた日本語”を身につける場にもなったという。
例えば、
最初の頃、ライアンさんは会話の中で否定をする場合、「いいえ」と言っていた。
それを聞いた日本の方が、「いいえ」というのは日常ではほとんど使わないので、「いや」と言った方が自然ですよと教えられる。

「聞き専」やって、たまにアウトプットして、というのを繰り返しました。だんだん喋れるようになって、日本の方といろいろな話題でコミュニケーションが取れるのが単純に楽しかったです。
Ankiは半年で挫折…

Ankiとディスコードを活用した日本語学習が肌に合ったのか、めきめきと日本語のスキルを高めていったライアンさんだったが、Ankiを集中的に勉強に取り組んだのは6か月間だけだった(ディスコードは継続)。
日本語が嫌になったとかではなく、頑張りすぎてバーンアウト(燃えつき症候群)になってしまったのだ。
代わりに、日本人が運営しているYouTubeを見るようになる。

リスニングの練習って言いながら、V Tuber※の動画をずっと見ていました。
具体的にはキズナアイ(バーチャルYouTuber)の動画をよく見ていて、特にゲーム実況にハマっていた。
リスニングの練習と称してAnkiでの日本語学習をサボっていたわけだが、まんざらではないところもあって、
- 声優がアテレコするV Tuberなので発音がきれいでわかりやすい
- 難しい表現なども比較的少なく、日本語の勉強にも適していた
というのも事実で、実際にリスニングの勉強にもなったという。

1年間くらい日本語のYouTubeの視聴を続けましたが、実際に日本語のスキルも上がって、慣れてきたらその他の日本の方が運営されているYouTubeチャンネルも見るようになっていきました。
例えば、字幕なしで最初に動画を見て、答え合わせをするように字幕付きでもう一度同じ動画を視聴する。
そして、二回目に「これは聞き取れたな」「これ全然違うかったな」といった感じでチェックし、苦手なポイントやわからなかった箇所を克服していく。

Ankiは途中でやめてしまいましたが、ディスコードとYouTubeの視聴を続けていたら、大学入学までに日本語はけっこう話せるようになりました。
大学ではライティングを中心に日本語を学ぶ

日本語のスキルが高まっていったライアンさんは、大学で日本語を専攻しようと考え、現在所属しているマーシャル大学に進学し、「Japanese and communication Studies」を専攻する。
アプリやYouTubeを活用した独学で日本語のスキルを磨いてきわけだが、ここで初めてアカデミックな日本語学習に出会う。

スピーキングはある程度できたんですけど、書くのが全然ダメだったので、ライティングに関しては基礎的なところから学びました。
ただ、地方の大学で、日本語を勉強している学生は正直少なかった。
周りの友だちと切磋琢磨してという環境ではなかったが、日本人の先生方が親身に指導してくれたのは日本語学習という点において、大きなメリットとなった。

専攻が少人数だったので、「ライアンのレベルだと、これをやった方がいいよ」とか、自分専用のレジュメを作っていただいたりとか、個別に指導いただけたのがありがたかったです。
特にビジネス日本語はマンツーマンで指導いただけたので、きめ細かにサポートしていただけました。
日本留学の最大の壁は飛行機!?

日本語さらに上達させるために、日本に留学したい!と、その思いを強くしていったライアンさんだったが、ひとつ大きな問題があった。
飛行機に乗れないというか、これまで怖くて乗ったことがなかったのだ(いわゆる「飛行機恐怖症」)。

日本にはめちゃくちゃ行きたかったんですけど、飛行機の問題があったので、けっこう悩みました。
隣接した州にしか出かけたことがなった

ライアンさんはウエストバージニア州出身だが、これまで
- ノースカロライナ州
- オハイオ州
- テネシー州
という隣接する3州に、ご両親が運転する自動車で旅行に出かけたくらいの経験しかなかった。
お父さんも飛行機が苦手で、「それがうつっちゃった」とのことだが、上記のようなことから飛行機を利用した遠出を経験したことがないのはもちろん、ちょっとお出かけをするときも「近場の観光地」というのがライアン家では一般的だった。
ただ、日本への思いを強くしていったライアンさんは、一念発起して「日本に行きたい!」ということを両親に打ち明ける。
実家を出たことがなく、これまで家族に頼りがちな生活を送っていたことから、お父さんもお母さんもライアンさんが「やっぱり止めておこう」となると考えていたという。

飛行機の問題で、最初の頃はけっこう悩んだんですけど、「これは仕方がないことだ」と割り切って、日本行きを決意しました。
飛行機対策は万全だったはずなんだけど…

ライアンさんが住んでいるウエストバージニア州と日本は14時間の時差がある。
フライト時間もおおよそ12~14時間だったので、飛行機に搭乗する時刻の14時間前に起きて、機内で寝て時差を調整する作戦でいく手はずだった。

ただ、実際に搭乗すると怖すぎて一睡もできず、けっきょく30時間くらい寝なかった計算になるんですけど、日本に到着したときはすごく疲れていました。
羽田空港に到着し、乗り継ぎで関西国際空港に行く予定だったが、上記のようにヘロヘロな状態になっていたところへもってきて、初めてのフライト体験、初めての海外ということで、トランジットがうまくできなかった。
乗るべきはずの飛行機を見逃してしまい、結果的に東京に宿泊することになる。

けっこう落ち込みましたが、東京には3日間くらい滞在して観光も楽しめたので、結果的にはよかったですね。乗り継ができなかったおかげで、大阪までも飛行機ではなく新幹線で行けましたし。
また、来日する前から留学生と外大生が交流できるオンラインコミュニティを活用しており、そこでライアンさんの窮状を知った外大生から連絡が入る。
宿のことや東京から大阪への移動方法についてなど、外大生がサポートしてくれたのが大きな支えになったという。

アメリカの田舎は車社会で電車も走っていません。だから、実は電車に乗るのも生まれて初めてだったんですけど、いろいろとアドバイスをもらえたこともあって、なんとか大阪までたどり着くことができました。
関西外大での学びについて

「飛行機」というライアンさんにとって最大の障壁を乗り越え、念願だった日本、そして関西外大にやってきた。
本学では主に、
- 日本語
- 漢字
- 翻訳
- 宗教
などの授業を主に履修した。

得意のリスニングは問題ありませんでしたが、文法などはまだしっかりと勉強していなかったので、関西外大で初めて学ぶことが多く、刺激的でした。
世界中の日本語マスターが集結するクラス

ライアンさんは日本語のリスニング、スピーキングが高いレベルにあり、関大外大の留学生別科の日本語レベルも最上位のクラスに所属する。
同じクラスにはライアンさんと同様、日本語マスターといっても遜色のない、ハイレベルの語学習得者たちが在籍していた。
これまで、周りに日本語学習者がほとんどいなかったということもあるが、彼らとの交流がライアンさんにとってもいい刺激になり、例えばお互いの日本語勉強法を共有し、情報交換をすることも大きなメリットになったという。

自分なりに一番いい勉強方法を見つけたので、多分変えることはないと思いますけど、他の日本語が上手い人の方法に興味あったので、それを聞くことができて視野が広がりました。
ちなみに、日本語レベルの高いクラスメイトの一例をご紹介すると、このWEBマガジンでも以前に紹介した漢字を恐ろしいまでに習得しているセスさん。
独学で高度な日本語の読み・書きをマスターしたフアンさん。
など、高い日本語運用能力をもった留学生たちが在籍し、より高度な授業が実践されている。
例えば、漢字のクラスにおいても、ライアンさん自身「Anki」で一定の漢字は読めるようになっていたが、TOPのクラスだとこれまであまり見たこともないような難読の漢字が普通に出てくる。

経済の記事や法律関連の文章だったり、そういうところで使われる漢字を学ぶのでこれまでほとんど見たことがありませんでした。
特に漢字や文法は初めて学ぶ内容が多かったので、新しい知識を得るという意味において大きく成長できたと思います。
なお、ライアンさんは本学での留学期間中に日本語能力検定試験を受験し、みごと最上位であるN1レベルに合格!
その快挙は、原籍大学であるマーシャル大学のニュースレターでも取り上げられた。

N1からN5まで5段階のレベルがあり、N1が最上位となる。
ちなみに、N1の設定レベルは「ネイティブの話す日本語を自然に理解、話すことができる。また、抽象的な議論が日本語を用いてでき、読解することができる」というもの。

試験の手ごたえとしては半々くらいだったけど、自信はありました。合格できてよかったです!
卒業後の目標は、日本語の翻訳家・通訳

翻訳の授業では、インターネット上のニュース記事などを教材に、日本語と英語の翻訳を行う。
その際に、先ほども少し話題に出たが、経済や法律などの専門用語が出てくるので、とても難しかった。
一方で、難易度が高かった分、勉強にもなったという。
卒業後は、日本語の翻訳・通訳の仕事も視野に入れているそうで、実は当WEBマガジンで行った留学生によるヴィーガン・ベジタリアン対談の通訳もライアンさんが担当してくれた。

私にとっても実践的な勉強の場となる貴重な体験になりました。
具体的な進路としては、地元で翻訳か通訳、もしくは何かしら日本に関わる仕事に就きたいと考えている。
その意味でも日本語能力検定試験のN1に合格できたのは、自信にもなったし、これから就職活動をする上でも大きな武器になるという。

マーシャル大学で師事している日本人の先生が、現地での日本人コミュニティとけっこうつながりがあるので、そのご縁を頼って日本人の方と仕事ができる職にたどり着ければと考えています。
観光に食べ物に、日本を満喫

飛行機が苦手で、あまりお出かけしないタイプということで、もともと観光には興味がなかった。
ただ、日本滞在中に過ごした「GLOBAL COMMONS 結-YUI-」での外大生や外国人留学生との交流や、大学のある枚方界隈の飲食店での会食などでも十分に日々が充実していたとのこと。
※「GLOBAL COMMONS 結-YUI-」については、以下の記事をご参照ください。

友だちの外大生たちが誘ってくれて京都や大阪、奈良とかに何度かお出かけしました。
普段あまり旅行しないタイプの人間ですが、観光地などを巡ったのは楽しく、日本でのいい思い出になりました。
人生で一番おいしいと感じたハンバーガー屋さんが枚方にあった!

日本に来てまずライアンさんが感じたのが、とにかく食べ物がおいしいということ。
地元のアメリカとかだと、大通りにある大きなお店に人が集まり、人気店になっているということが多いが、日本の場合、すごく美味しいお店が路地裏とか、人通りの少ないところにもあったりするので、それに驚いたという。
そんなライアンさんがお気に入りなのが、大学近くの住宅街のまさに「少し入り組んだところ」にあるCafe & Burger Sancra枚方店だ。

ダブルチーズバーガー(※上の写真)が絶品です!

「日本のお菓子も大好き!」ということで、袋買いした「うまい棒」があったので記念撮影をしておいたのが上の写真。
食べ物の関連のお話の最後に、日本で食べたもので好きになったものを訊くと…

カレーです。ココイチのカレーを毎日のように食べていました(笑)
人生が激変すると思って来日したけど、いい意味で変わらなかった

関西外大への留学は、ライアンさんにとって初めてのことが多った。
- 初めての飛行機
- 初めての海外
- 初めての親元を離れての生活
自分の殻を打ち破り、これらを体験することで、自らの人生が大きく変わるんじゃないかなと考えた。
しかし、実際に日本に来てみて、そこまでの大きな変化はなかった。
つまり、自分はアメリカの生まれ育った地域でしか生きていくことができないかもと思っていたが、遠く離れた日本の大阪でも、地元のウエストバージニアにいたときと同じように、日々の生活を楽しく送ることができている。

いい意味で、大きな変化はなかったんです。だから、どこでも生きていけると自信にもなって。
ただ、僕の場合、アメリカも日本も大好きだけど、行き来する手段の飛行機が苦手という問題がありますが(笑)。
さいごに

最後に、あらためてライアンさんに語学学習のおすすめの勉強法について尋ねてみると、「とにかく楽しみながら勉強できる方法をみつけてほしい」という答えが返ってきた。
ライアンさんの場合、
- Anki(アプリ)のフラッシュカードで語彙数を増やす
- ディスコードでリスニング、スピーキングを鍛える
- その後、YouTubeやアニメで言葉や会話のスキルを向上
という学習法を実践した。
Ankiの活用は王道的なやり方で、単語や文章を覚えるという意味でも有効的なメソッドだが、ライアンさんの場合その作業がしんどくなってきて、半年間で断念をする。
そして、自分が好きなYouTubeチャンネルの動画を視聴し出した。

結果、それが自分に合った勉強法になって、楽しみながら日本語のスキルを向上させることができました。
単語を覚えるといった基礎的な勉強はもちろん大切だけど、皆さんも好きなモノを切り口にしたりすることで、楽しみながら語学学習に取り組める「自分だけの勉強法」をぜひ見つけてください!