「湯村温泉緑屋」社長の重田幸太郎さん(英米語学科2019年卒)/業界の10年先を見据えて、新たな旅館経営に挑戦しています

 今年の春から「湯村温泉緑屋」で社長を務める重田幸太郎さん(外国語学部英米語学科2019年卒)に、業界の10年先を見据えてチャレンジする新たな旅館経営について語っていただきました。


▲今年4月から湯村温泉緑屋で社長を務める重田さん

 重田さんは、1996年に堺市南区で生まれました。関西外大在学中は、「サービス・ホスピタリティ業界のリーダー育成プログラム」に1期生として参加しました。卒業後、オーストラリアの「Blue Mountain international Hotel Management School」で、国際ホテル経営学の修士を取得します。そして2023年4月、オープンとともに26歳で陣屋グループの湯村温泉緑屋社長に就任しました。
 
※関西外大通信313号の連載企画「外大人Vol.25」の記事を基にまとめています


■1200年の名湯で挑戦


▲緑屋のラウンジでさまざまな思いを巡らせます
 
 湯村温泉は、兵庫県北部の日本海にほど近い1200年の名湯です。重田さんはこの名湯で「10年先を行く」挑戦を続けています。

 「(あまりに若いので)大丈夫かとみんなが心配してくれます」と苦笑いする重田さん。

 湯村温泉緑屋のスタッフはわずか5人。接客も、経理も、仕入れも、マーケティングも、営業も、すべて自分たちで行います。「若いから…」などと言い訳している余裕はありません。


■ネットですべて管理


▲オープン前の3月に開いた内覧会講演で思いを伝えました

 「湯村温泉緑屋」の客室は10室。「10年先を行く」ためのカギはIOT(モノのインターネット)です。グループ会社独自で開発したソフトウェア「陣屋コネクト」を使うことで、顧客情報から従業員同士の連絡まで一括管理しています。

 浴場の湯温を0.1度単位まで制御することができます。

 客室の扉の開閉は一目瞭然です。

 もちろんチェックインもチェックアウトもネットで管理しています。

 「ネットばかりで、お客さまとの対面でのコミュニケーションがなくなる」と批判されることがあります。

 実際には逆です。

 たとえばチェックインでは、門切り型の会話ではなく、ゆっくりと会話する時間を持つことができます。おもてなしする時間はむしろ増えています。

 緑屋では夕食の提供がありません。地元のレストランでおいしい料理を満喫してもらうためです。

 「レストランと提携して緑屋専用のコース料理をつくってもらっています」といい、「地元にお客さまを回し、地域密着を実践しています」と話します。


■ホテルは総合サービス


▲オーストラリアの大学院時代に仲間と(左から2人目)

 「ホテルは総合芸術であり、総合サービスである」

 今までの学びや経験が凝縮された、重田さんの信条です。

 外大時代、アルバイトをしていたホテルのフロントで、酔っ払いにたばこの煙を吹きかけられたことを強烈に記憶しています。自分が幸せでなければ、〝心の労働〟であるホスピタリティは成り立ちません。

 ホテルの裏側を見てしまうと、「サービスを提供したいという気持ちが薄れないだろうか」と不安になりました。

 卒業後、オーストラリアの大学院に留学しました。ホスピタリティとともに、ファシリティマネジメントやビルマネジメントなどを徹底的に学んだことで、全部自分でやる「マルチタスク」に憧れるようになりました。フロント業務も、ドアマンも、経理も、営業も、メンテナンスも…。

 まさに「ホテルは総合芸術であり、総合サービス」でした。


■無給で働き〝武者修行〟


▲外大の授業でゲストスピーカーに招かれて後輩たちに講義しました

 学びを1日でも早く実践につなげたいとの思いが募りました。しかし折から、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大がホテル業界を直撃していました。

 重田さんは「無給でいいから働かせてほしい」と外資系ホテルに頼み込みました。「絶対無理と思っていても、とにかく頼んでみること。やる気を買ってもらうのです」と笑います。

 無給でも働きたいとのやる気も能力も認められました。ホテルの全部署で経験を積み、ついに幹部候補生プログラムに参加できることになります。総支配人への道が開けました。

 このまま大手の外資系ホテルで腕を磨くことも可能でした。

 しかし、重田さんが選んだのは「日本旅館」。日本独自の旅館を盛り上げたいとの思い以上に、自分が目指す「10年先を行く」経営を実践できる場と確信したからでした。


■外大で培った力が源泉


▲外大時代に知り合った妻(右)は、現在CAとして活躍中です

 重田さんの縦横無尽な発想力と行動力の源泉は関西外大です。

 外大の学修は、講義を聞くだけという受動的な学修ではありません。学生が自ら考えて学修していく授業がたくさんあります。

 「テーマに対して自分の考えをまとめるエッセイやディベートの授業では、否定せず、考え方を評価してもらえました」と話します。教員は、自分で導き出したプロセスを評価してくれたようだ。このような評価が、今の自分を開花させたと思っている。

 外大で培った深い思考力は、最大の強みへと変わっていきました。


■日本旅館の魅力発信


▲外大で培った実力と夢を語ります

 1つのソフトウェアで一括管理するDX化は「大手の外資系ホテルの10年先のマネジメントを行っている」と胸を張ります。

 独自のソフトウェアを使用することで、少人数での運営が可能になります。誰でもどこでも旅館全体を管理することができます。スタッフ全員が旅館全体を見渡せることで、アイデアが出しやすく、より良いおもてなしの実現が可能です。

 アート・イン・レジデンスやワーケーションといった新しい取り組みが注目を集める一方で、日本旅館は厳しい状況に置かれています。

 「この人数で、10年先の経営をやっていますと言えなければ…」という重田さんは「責任重大です」と口元を引き締めます。

 最近は若者に人気の昭和レトロのイベントを考えるなど、地域の活性化にも取り組んでいます。

 そして今日の宿泊客のために、自ら大浴場の清掃に汗を流しています。


▲10年先を見据えての挑戦を母校で熱く話してくれました


 
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