FDカフェ第10話 澤田治美教授が「ことば」の魅力を語る

 コーヒーを飲みながら、くつろいだ雰囲気の中で教育や授業のあり方について語り合う「FDカフェ」(FD委員会主催)の第10話が127日、中宮キャンパスの多目的ルームで開かれた。今回は外国語学部の澤田治美教授が「ことば、この大いなる存在の研究と教育の魅力をめぐって」と題して、日頃の授業の一部を再現して紹介するとともに、自らの研究の経歴を振り返った。学研都市キャンパスにも遠隔中継された。

▲ことばの魅力を語る澤田治美教授
 

 「意味の研究」を専門とする澤田教授は第1部として、「意味論・語用論の楽しみ」をテーマに、授業形式で講義を進めた。国語学者・時枝誠記「国語学原論」などから、<言語は誰(主体)かが、誰(場面)かに、何(素材)かを語るところに成立する>とする、言語の成立条件としての「主体」「場面」「素材」の三者の関係を示し、「ことばを発することは行為である」と説いた。
 

 そのうえで、「意味には、文字通りの意味を超えた大いなる力がある」などとして、いくつかの具体例を課題にあげ、大学院生に回答させた。例えば、ピアノの上にメガネが存在している状況について、「メガネはこんなところにあった」との例文を示し、なぜ「ある」ではなく「あった」といいう言い方をしたのかを考察した。例文の場合、話し手がメガネを探していたという前提があり、それが見つかったという「安堵感」(モダリティ=心的態度)が表れているなどと、言葉の背後にあるさまざまな要素について説明した。

▲FDカフェに参加した教員ら

Tomorrow will be Christmas Day と Tomorrow is Christmas Day の違い

 また、米国の作家オー・ヘンリーの短編「賢者の贈り物」の一節から、作中の女性が語る「Tomorrow will be Christmas Day」の例文を引き、時制がなぜ「is」ではなく、「will be」なのかを考えた。澤田教授は、単に暦の問題であれば「is」が使われ、話し手にとって特別な日の場合は「will be」が使われるのではないかと推測し、作中人物の心理が描かれていると指摘した。さらに、ネイティブへの聞き取りから、「is」は人ごとのように聞こえるため、あすが結婚記念日であることを妻に話すようなケースでは「will be」のほうが適切だとする見解を紹介し、母語話者の特殊なモダリティを示唆していると解説した。
 

 澤田教授は第1部のまとめで、「ことばの意味を分析する場合、目に見える水面上の意味にとどまらず、目に見えない水面下の意味も分析する必要がある」として、万葉集の和歌2首を取り上げた。和歌を正しく解釈するためには、時代背景や作者の置かれた立場といったさまざまな知識が必要になることを指摘し、「ことばの海は広く深い。意味解釈の営みは終わりのない航海である」と結んだ。

「ことばは力である」

 続く第2部は「続・現代意味解釈講義」のテーマで、ことばをめぐる探究の歴史が語られた。澤田教授は、島根県立高校時代に出合った立原道造の詩、英文を専攻した大学時代にドイツ語の原文で読んだシュトルムの詩、藤沢周平の小説などから得た感動について触れ、「ことばは力であり、ことばの意味は生きる意味につながっている」と力説した。さらに、出身地のことばで、松本清張「砂の器」で有名になった奥出雲方言、大学時代の恩師や勤務先での先学との出会い、これまで勤務した福井大学、静岡大学、関西外国語大学で学生と続けてきた読書会のことなど、話題は広範囲に及んだ。

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