博士論文公開審査 陳紫軒さんが「和製新漢語に関する研究―中国語での受容と和製新漢語の造語法―」の論題で発表

 大学院の博士論文公開審査が6月21日、中宮キャンパスで行われ、大学院博士後期課程言語文化専攻の陳紫軒さんが「和製新漢語に関する研究―中国語での受容と和製新漢語の造語法―」の論題で発表しました。


▲博士論文公開審査の様子

 「和製新漢語」(和製漢語)とは、「民主」「国際」「憲法」など、主に明治維新後の日本で西洋の概念や思想を翻訳してつくられた漢語。日本語と中国語の交流においては、長い間、中国語の語彙が大量に日本に流入してきたが、この時期は、逆に多くの和製新漢語が中国に流入するという転換点となりました。


▲陳紫軒さんの博士論文のタイトル

 従来の研究は、「和製漢語」が形成される背景や語の分類に重点を置いていたが、陳さんの論文は、和製漢語の中国語での受容や、その動機、中国語への影響に焦点を当て、非中国語母語話者の観点からも分析を試みました。


▲博士論文について発表する陳紫軒さん

 和製新漢語の中国への流入の背景について、当時の中国が近代化の推進や、その人材を育成する必要から、日本への留学派遣を進め、中国人留学生らによる日本語書籍の翻訳が盛んに行われたことなどに注目し、漢訳された日本語書籍が中国国内で流通するようになった経緯を述べました。

 研究対象として、渡日中国人留学生らによって中国で刊行された『新爾雅』という西洋の新概念を集めた用語集を分析しました。掲載された2305語のうち、和製新漢語は403語(17.5%)を占めました。和製新漢語は中国語に流入後、中国製新漢語の構造や文法にも影響を与え、新たな語を生み出す原動力になったとしたうえで、「和製新漢語は中国語語彙の増強に寄与し、中国に西洋の学問や知識、近代化の波をもたらした」と指摘しました。

 また、中国に滞在する宣教師らが英語母語話者に中国語の新語を紹介する時事用語集『NEW TERMS』という書籍を分析しました。こちらは2586語のうち、和製新漢語が515語と、前掲書の割合に近い約20%を占めました。この結果、非中国語話者の視点からの分析においても同様の傾向が裏付けられました。

 和製新漢語の造語法については、両書に収録された語彙を、造語要素である「語基」に分解し、各字語の構成パターンを考察しました。そのうえで、和製新漢語は既存の漢語を基にしていることが多いとし、日本語の特徴である簡潔さや明確さを保ちつつ、漢語の表現力も取り入れている、と分析しました。
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 公開審査には、大学院外国語学研究科長の益岡隆志教授、靳衛衛教授、柿木重宜教授や大学院生が出席しました。「実証的研究で全体的にまとまった論文」「かなりの数の語彙を取り上げており、博士論文にふさわしい」といった声が上がる一方、「先行研究は多いが、新たに見出したものは、どのあたりに貢献したのか」「語彙研究ではあるが、時代背景にも、もっと触れてもいいのでは」などの質問や意見も出ていました。
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