関西外国語大学・公開講座「映画『WHOLE』上映会・座談会」を開催しました

 2024年4月、関西外国語大学外国語学部に国際日本学科が開設されるのを記念して、公開講座「映画『WHOLE』上映会・座談会」が10月14日(土)、中宮キャンパス・マルチメディアホールで開かれました。学生や外国人留学生、一般市民ら60人が参加しました。

 映画「WHOLE」は、国籍の異なる両親の間に生まれたハーフの若者2人を主人公とする短編作品で、神戸を舞台に日本社会に対する複雑な心情や葛藤を純粋な視点で静かに描き、エスニシティ(民族性)やアイデンティティ(自己同一性)の問題を浮き彫りにしており、英語字幕付きで上映されました。


マルチメディアホールで上映された「WHOLE」

 今回、講座にお招きした川添ビイラル監督もミックスルーツを持っており、弟のウスマンさんが自身の体験を基に脚本を書き、主人公の一人を演じています。上映に先立って登壇した川添監督は「急速に進む社会の多様化に世間の意識が対応できていない側面があることを、この作品を通じて知っていただければ」と挨拶しました。


「WHOLE」を鑑賞する参加者

 上映後、外国語学部の松田健教授を進行役に、川添監督を囲んでの座談会が開かれました。ゲストとして国際共生学部のジョン・シュルツ准教授とスコット・ベイリー准教授が加わり、本作の感想などを語り合いました。座談会は日英バイリンガルの型式で行われ、英語キャリア学部4年の伊藤隆樹さん、外国語学部4年の宮口桃佳さんが通訳アシスタントを務めました。

 初めに松田教授が、日本における在留外国人数(2022年末集計)が300万人を超え、過去最多となっていることや、両親のどちらかが外国籍の出生数(2021年集計)は1万6225人で、総出生数の2.0%に相当することなどを解説しました。

 座談会では、シュルツ准教授が「すごく考えさせられる内容でした。宗教の授業を通して多様性をもっと受け入れることができる日本にしていきたい」と述べました。ベイリー准教授は「アジアの歴史について教えていますが人種問題に関心のある学生が多く、川添監督が〝ハーフ〟という題材を取り上げていただきうれしく思います」と話しました。


座談会の様子(左から松田健教授、川添ビイラル監督、ジョン・シュルツ准教授、スコット・ベイリー准教授、伊藤隆樹さん、宮口桃佳さん)

 参加者からは、「なぜこのタイトルにされたのですか」や「作中に『納豆食べれるんだ』『箸の使い方がうまいね』といったマイクロアグレッション(小さな攻撃性)が多く描かれていますが何故ですか」「ハーフの立場として辛くならない言葉の受け止め方はありますか」などの質問が出ました。

 川添監督は「最初、タイトルは『Hafu』でしたが、編集段階でメッセージ性が弱いと感じ『WHOLE』に変更しました。ハーフ(半分)ではないホール(一個、全体)を表す言葉を選びました」「無意識に発した言葉の中に、相手を傷付ける偏見が含まれることがあることを伝えたかったのです。マイクロアグレッションを解決するためには一人一人が相手の気持ちを考え、多様性を受け入れる意識を持つことが大切です」「アイデンティティは自分自身で理解するもの。時とともに適応した考え方ができるようになります」と答えました。

 最後に川添監督は「この世界で完璧な多様性を実現することは不可能かもしれませんが、映画を通して小さな思いやりの気持ちを持つことや、優しい言葉を掛けることの大切さを伝えていくことが私の使命だと思っています」と締めくくりました。
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