≪教職を目指す・教職と向き合う≫ 小学校の外国語指導/プライドと自信持って/直山木綿子教授に聞く

 外国語教育が導入され、高学年で教科担任制が採られるなど、小学校の教育現場は大きく変化しています。英語キャリア学部小学校教員コースの教員養成も大きな転機を迎えています。文部科学省初等中等教育局視学官から2024年春、英語キャリア学部に着任した直山木綿子教授に、初等教育の教員養成について聞きました。



 直山木綿子(なおやま・ゆうこ)京都市立中学校の教員を経て市教育委員会に勤務。2009年文部科学省初等中等教育局教科調査官、国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官。2019年同省初等中等教育局視学官
 
※関西外大通信「THE GAIDAI」317号の特集記事「教職を目指す・教職と向き合う」を基にまとめています。


――小学校英語の現状をどう見ていますか

 2020年度から実施された現在の学習指導要領で小学校5・6年生の外国語が教科となり、5年目となりました。文部科学省の教科調査官、視学官として小学校の外国語教育が大きく変わる時期に立ち会うことができて幸運でした。

 指導方針の周知徹底や、教材作りが主な仕事でした。当時、小学校の現場では、どんなふうに教えたらいいのかと不安が広がっていました。小学校の外国語科について学習指導要領には学習内容、目標は書いてありますが、どの順で始動するかは書いてありません。どの順で、どこから始めるかをある程度の根拠を持って提示するのは勇気のいる一歩でした。

 当初は戸惑っていた小学校の先生方はすごく力を発揮していると思います。まるで、ドラえもんのポケットのように、さまざまアイデアを出しています。外国語活動や外国語の授業は、国語や算数と違い、教師と児童が対等の立場でコミュニケーションをとらなければなりません。一部に上の立場から教えようとする古い考えを切り替えられない先生もいますが、おおむね充実してきています。

――課題は何でしょうか

 小学校と中学校の連携がうまくいっていないことです。小学校で児童が学んでいることを中学校の先生が理解していません。中学校では、小学校でやってきたことを生かした授業をする必要があります。しかし、小学校で「聞く・話す」を中心に英語を使う授業をたくさんしていても、中学校になると、日本語で解説する授業が多くなり、生徒がその違いに戸惑います。英語は実際に使わないとうまくなりません。自転車の乗り方の解説を何回聞いても乗れるようにならないのと同じです。

 中学校学習指導要領には、小学校に外国語教育を導入した後、中学校ではどのように指導すべきか記されていますので、先生方がそれを基に指導改善をする必要があります。ただ、これには文部科学省の発信が十分にできていない面もあり、私も反省しています。

 全国学力・学習状況調査で3年に1回行われる中3の英語の結果は芳しくありません。結果の分析を見ても、中学校での指導が変わって行く必要があると感じます。



――どう改善していけばいいのでしょうか

 まず、中学校の先生が小学校で行われている外国語活動や外国語の授業について知ることです。そこから、中学校でどんな指導に変えていくべきかを考える力をもっているのが中学校の先生のはずです。高校についても、学習指導要領を読みこなして、高校3年生でどんな力をつけなければならないかを十分に理解する必要があります。

 全国の小中学校の児童生徒に1人1台のタブレット端末が配布されています。これを授業で活用すれば大変有益です。例えば、1クラス35人として、教師が全員に目を行き渡らせるのは困難ですが、端末を使えば、全員が入力したものを手元で見ることができます。35人が書いたものの中でどんな言葉がたくさん使われているか、傾向を見ることもできます。遠方の学校とつないで交流することも可能です。

 大学でも端末をもっと活用するべきです。特に、教員志望の学生は、使い慣れていないと、実際に教師になったときに授業ができません。

――小学校教員コースをどう見ていますか

 グローバル社会の中、外国語大学の中に英語に強い教員を養成するコースがあるのは大きな意味があり、全国に向けて大きなメッセージ性があると思います。小学校教員コースの卒業生には、今後の小学校英語の指導者として大いに期待しています。英語力を鍛えるのはもちろん、指導法、クラスづくり、どの子も取りこぼさないためにどうすればいいか、幅広く学んでほしいと思います。

 学生たちには、大学名に「外国語」が入っているということにプライドを持ち、外国語の指導では負けないという自信を持って学んでほしいと思います。教師という仕事は、一生懸命に取り組めば、必ず子どもたちが応えてくれます。人生は一回しかないが、教師はいろいろな子どもと出会うことで人生の豊かさが広がります。喜びがたくさんみつかります。こんな楽しい仕事はないと思っています。



 
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